宿・旅館・ホテル

2012年8月21日 (火)

廃墟を活ける。③

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“廃墟” は 『滅び』 なのだろうか それとも 『死』 なのだろうか。

不老不死を望んで 返って死を早めた始皇帝という人が昔いたそうだね。

『国破れて山河あり…』 山や川は滅することなくそこに残る。

「山は死にますか─」 そんな歌を聴いた覚えがあるよ。

人は どこか不老不死を望みながら それはかなわぬことだとも悟っている。

だけど

手塚治虫の『火の鳥』

古いSF映画で『未来惑星ザルドス』という

不老不死の無意味さを説いたお話があるんだよね。

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小学生の頃だったか…

不思議なもの好きな友達が 友だちが『ムー』を毎月買っていて

興味本位で読んでたら おそろしい予言ばかり載っていたので

生きていくのに悲観的になっちゃったことがあったんだよ。

うーん…(゜_゜>) 物事をストレートに受け止めすぎるんだな。。。

そんな私が『廃墟好き』になっちゃって

これはいったいどうしたことなんだろうヽ(´o`; 

なぁんて思うこともあるよ(@^▽^@)

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興味はなかったにしても 『廃墟』に感動することって あるよね。

いつかは滅びの禍の中へ行くものの

嘆き あるいはただ静かに沈んでいく姿が

涙も 叫びも超越したようで

節操のない雑木にまみれながらも動じることなき遺構の姿。

そこに ホントに超越した神々しい何かを感じるのかもしれない。

生老病死の世の中に嘆いて

人々をその苦しみから救いたいと願ったお釈迦様も

終の日は 超越すべき 『死』 をただ静かに迎えたのだそうだ。

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『廃墟』 で感じる時間は とてもとても静かで 緩やかなんだ。

のんびり屋の私が そこを歩いていると

とてもセカセカしているように思えてくるんだよ。

なんだか寡黙に長時間露光している廃墟師匠が仙人に見えてきたよ。

哲学的というのは ひょっとすると こういうことなのかな…(・3・)

ちょっと そんなこと考えてみたりもする。

Tiltshift

そういえば この廃墟…

すこしばかり造作的なこの様子が哲学的にも見えたりするんだ。

白く朽ちるコンクリート そこにまつわり着く蔦

雑草に領地を犯させることなく 平に刈り込まれた芝

自らを誇示しすぎることなく 小さく花を点ける低木

そして蒼い空と そこを自在に泳ぐ雲

昨日と同じ空は無くて 今日流れていった雲には二度と会うこともない

季節は幾度も巡るようだけど

それは大きな輪っかなんかじゃなく ただただ繰り返す1本道

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さあて さあて

限りあるものの景色見上げて

これからどんな風に生ききってやろうかと思った。

廃墟は 決して滅びているのではなく

活けられている

私も そしてあなたも 活けられているのです

この盆景の上で他愛なく (#^.^#)

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                        そうなんだ

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2012年8月 7日 (火)

廃墟を活ける。②

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庭は「廃」がとても多い。

廃線の枕木はと元よりアンティークレンガや流木
今はあまり見なくなった木の電柱
使い古した椅子
欠けた水瓶 古い酒瓶 壊れかけた自転車 etc..

割れた鉢でさえも日曜ガーデナーは巧みに庭のアクセントにしてゆく。。。

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プロのガーデナーのデザインの影響もありますが
身近にある素材を利用するバリエーションは、その家々のセンスで如何様にも変幻するのです。
新しい命が「生」を
讃えて咲き誇る中、ひとつの香辛料として、その存在を置くことが返ってその場を更に映えさせるのかもしれません。

ポップアートや現代芸術の作家が生活(日常)に近しいものを素材とすることで現代社会を写しとるように庭においてはノスタルジアでありながらも更なるドラマチック性を持たせるために使っているように思えるのです。


意図的に あるいは無意識に 血の記憶も担って。。。

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廃墟も寒々しい雪原に佇む姿や
雪の重さに倒れた枯れススキに囲まれて
ただ乾いて、退廃的なイメージの冬から初春にかけての姿よりも
緑が産して遺構を覆い尽くさんとする景色…
コンクリートの古城の中、スポットライトのようにわずかな光が注ぎ込む光の中でひ弱ながら何か希望に満ちたかのように新芽が伸び上がる様子
私はそういうものが好きなのです。

Dsc07971もちろんそれは、人それぞれなことです。

それはそうなのだけれど
闇があって光は映える
涙があって喜びに感嘆する
寒々しい冬があるから春が萌えさかる


人に捨てられて、もしくは忘れられて「廃墟」です。
でも本当の意味での廃墟は、いかほどあるのだろう。。。
鉱夫が去った鉱山(ヤマ)、子どもの消えた学び舎
そして、くつろぎと癒しを人たちの来なくなったホテルや旅館。


ここにある廃墟もまたホテル跡です。
しかし、少しばかり様子が変って感じられたのは
その景色があまりにも造作的だったからでした。

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この廃墟は何らかの形で命を持たされているのです。

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2012年8月 1日 (水)

廃墟を活ける。 ①

海から、それほど離れてはいないのに
そこはもう、どこまでも続きそうな緑の海です。

深い渓谷も上から下まで緑一色で
まるで大海原がパックリと割れているようだ。

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海原の如き樹海に漂う切れた釣り糸のごとき道
頼りなき筋なれど、そこに沿うように進む小さな小さな車。
あるときは群れて またある時は孤独に浸りながら
その道へも緑色の汐はザワザワと打ち寄せる。

緑海の中、筋道がより所にするように浮島が点在する。

Dsc07944古きもの 新しきもの
覚えているもの 忘れたもの

見飽きたもの 目を引くもの

時の流れに磨かれて
光沢の光を放つものあれば
ただ削られていくばかりで
小さく惨めに干からびていくものもある。

写真と記憶は薄れていっても
思い出のあの場所は
むしろ色濃くなっていくんだよ。
思い出して欲しいのか
終の時目指してゆっくりと自らを作り替えていくみたい…

血のように赤く
血管のように筋目立たせて…


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疲れきって、魂が抜けたみたいに静かで、乾きすら超越した遺構に
それとは反対の
鮮やかに色づく命の象徴のような緑が包んでいく様は
傷を癒そうとするみたいにも感じられる。

緑の海の中
沈む船のように小さく見え隠れしている。
やがてあの赤い塔も 緑色の大きな屋根も樹海の中で本当の遺跡になるのだろうか。

景色が急に開けた。
すでに虫の息と思えるものがそこにありました。
それでも、どこか生き生きして見えることに
なにか
微妙なさじ加減に思えたのです。

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2011年5月 5日 (木)

ヘンゼルとグレーテル② 「ヒダル」

Castele

【前回までのあらすじ】

 ナギサは女の子の幽霊。なりきれてない感で自称、半人前の幽霊。
生前は、海の街で暮らす海の大好きな子でしたが、運命は日、彼女を『想い』だけの存在にしてしまいました。両親には声も姿もわからず、やがて彼女を残して家からも去ってしまった。
 行くところもなく、一人そこで暮らしていたナギサは、人から姿を見られることもあり、幽霊騒ぎが起きたことから人嫌いになり家に引きこもるように。多感な年頃のナギサは外の世界に憧れながらも日陰で暮らさねばならなくなった…

ある日、棟続きの家にカズヒロという男の子が越してきて、ひょんなことから押入れの穴越しに付き合うようになる。不思議にも彼にはナギサは普通に生きている子となにひとつ変わらないように見えていた。
 ナギサにも数年ぶりに楽しい日々が訪れたようだが、カズヒロは両親の都合で再び引っ越さねばならなくなってしまった。
再会の約束をしながらもナギサは、また暗がりでひとりぼっち。

 ある嵐の夜、強い風は家の屋根を壊してしまい、引きこもりの暮らしも続けられなくなってきた。
おりしも近所で起こった身に覚えの無い幽霊騒ぎ。様子を伺いに行ったナギサは、風に乗っていろいろな海を旅する幽霊に出会い、風に乗る方法を教わった。

 そうしてナギサの旅は始まったのですが、人の目が怖い彼女の旅は、自然と行き先が『時が残した忘れ形見』の旅になったようです。
 その旅の道中に出会った石地蔵の魂『コロン(石ころなのでナギサがコロンと名付ける)』という旅の道連れもできましたが、ナギサと正反対で“人間観察”の大好きなコロンをなだめるのに毎度ひと苦労…

 今日も一夜の宿として空から見つけた森の中に佇む廃墟へやってきたのですが、なにやらいつもと違い大きくて奇妙な感じのするところのようです。
そこでナギサは、うっかりエレベーターホールから階下に転落。コロンのいる上へ戻ろうとしていたところ、先にコロンの元には怪しい人影が現れていた…

イーッヒッヒッヒ… い?

Nagisaloftup
「あれ… コロンいない… どこ行ったの?」

上へ戻るとき、ちょっと驚かせてみようと企んでたのに、入れ違いにコロンは下に降りていったみたいだ。戻るって言ったのに…

『コローン コロコローッ 私、ここだよーっ』

Nagisawake 返事がない。
屋上に行ったのだろうか…まさか勝手に表へは行ってないだろうなぁ…
それにしても返事くらいできるだろうに

まてよお…コロンも私を驚かそうとしてしてるんじゃ… そんなとこあるからなぁ。
よし!そうはいかないぞ。 まだ外も明るいし、受けてやろうじゃないか!
回りを気にしないフリをしながらも細心の注意で探すことにしよう。

作りかけで止まってしまったみたいな建物。命が入っていないようで静かだ。
建物の命はいつ入るのだろう…
鉄や石や木や、そのほかいろいろなもので作られたお城。
大きな体を形作る部品は、またそれぞれ命を持って、別な心も持って、ひとつの建物として完成した時、初めて建物としての心になるのだろうか。
私が話してきた建物や橋や、いろんなものたちは「その形として」の心を持っていた。でも、その以前もそれから先のことも、どうなっていくのかよくわからない。

Monster

 そういえば、コロンも始めからコロンじゃなくて大きな石の一部だったということを聞いたことがあった。
それが割れて、小さくなって、小さなひとかたまりになったときに初めて『コロン』という心が目覚めたらしい。
ひとつの体があって、ひとつの命がある人もまた、同じじゃないだろうかと思うことがある。

 元は、何か大きなもののホンの一部で、そこから「私」という欠片が落ちることが誕生というものなのだろう。
今こうして「この世」にとどまるための器を失った欠片。それでも私はまだ私なんだ。

いつか、今の私がもっと小さいものになるか、大きなもののひとつになることで「私」という存在が残っていても別なものとして変っていくのかもしれない。

そういう覚悟は、いつかしないとならないだろう…

Nagisa_up

抜け殻になった建物(体) 抜け出てしまった私

私は、まだ「私」のまま。
体のない半人前な存在の私。 それが「私」

ひとりになると、そんなことを考えてしまう。
このまま何も変らないで、何にもならないでズーッと旅しているけど
こんな日もいつか、終わらせる日が来るんだろうなぁ…
私がこの世界に留まっていこと。それが「迷い」ということのか…。

『幽霊』って、きっとそういうものなんだろう…

えーいっ!ダメだ!ダメだ!
そんなこと考えてるから、コロンに言われるんだ。

『ナギサーン!ひきこもりぁダメですらにぃ。もっと明るくに出りませんとなぁ』

そうだ!コロンを探してたんだ…

 

 

 

一方、海を隔てた向こう側の町。カズヒロは、居候の幽霊に大変うんざりしていた。

Mtbook

「山は良いところよーっ。君も登ってみればいいのに…」

「あんたがそれを言うわけ?」

「私? なにが? どうして?」

「…だって…山で…」

「…そうよ。山で死んだよ。でも、だからって山が鬼ってことにはならないじゃない…」

「だけどさ…なんつーか…説得に欠けるじゃないか」

「ああ!そっか!…だよね。山で遭難した私の言うことじゃないよね。ハハハ…。でも、あれは私の不注意なんだし、いまさらどうこう言ってもねぇ…」

Wm0010  数ヶ月前から、この幽霊にとり憑かれている。
生前は大学の山岳部員で、登山中の事故で亡くなったそうだ。
捜索では見つけてもらえなかったらしい…。
自力(?)で戻ったその家も、すでに空家になるほど年月が流れて、行き場を無くしてたところに通りかかったのが俺らしい。
始めは、怖いというか、驚いたというか、信じられない気持ちで呆然としていたけど、もう慣れた。
慣れたというよりあきらめたというべきだろうか…

いや!あきらめるもんか! 四六時中傍にいて、やることなすこと全部見られているのは、もうガマンできない。

「別に君をとり殺すつもりなんて全然ないよ。それで私がなにか得するわけでもないしさ…。行き先ができたらちゃんと離れるから、それまで一緒にいさせてよ…。ね?」

断ると、それこそ逆恨みでとり殺されるような気がして嫌とは言えなかった。
選ぶ選ばないというよりこれは、暗黙の強制みたいだ…

「カズ?近頃、食欲ないの?なんだか疲れてるみたいよ」

母さんも言ってた。
やっぱり、やつれて見えるんだろうな。
そりゃそうだよ。いつも幽霊が傍にいるんだから。
言っても信じてくれないだろうけど、寝てるときも 学校に行くときも トイレの中だって…

「ねえまだ終わらないのこんな狭いところじゃ落ち着かない

「なら外に行っててくれよ!出るものも出やしないじゃないか!」

「照れてるの? カワイイ…」

Wm0016 そういう問題じゃないって…!
そもそも幽霊なんてのは、なんていうか、狭くて薄暗いところにいるもんだろ。
しかし…この調子じゃ、やつれてくるのも無理ないな…いつも見張られてるみたいで充分ストレスだ。
幽霊に取り憑かれるっていうのは、たぶんこういうことなんだろう。
「恨み」とか「呪い」ってのは、今はよくわかんないけどさ…

「ところで“ヒダル”…」

「だから私の名前は“ヒカル”

幽霊の名は「ヒカル」という。
それを「ヒダル」と聞き違えただけで、すごくムッとしてた。

「ヒダルって“大台ケ原”あたりに出るやつでしょ。伝説ににでてくる妖怪でさ、入山した人に取り憑いて衰弱死させるんだとか…怖いよねぇ…」

※三重県と奈良県の県境にある標高1400~1600の大地。山中で突然の脱力感や体に重みを感じることがあり歩くこともできなくなるという。火山ガスの影響が考えられたが火山は存在しない場所である。調査により、森林内の枯葉などの堆積物が腐敗する過程に発生する二酸化炭素説が有力。「大台ケ原」の場合、有機物の存在・暖かい気温・湿度など二酸化炭素の発生する要因が整っていることが判明している。これは、大台ケ原に限ったことではなく、季節により日本全国で同様のことは起こりうる。二酸化炭素を大量に吸い込むと心拍数の増大、脱力感、意識障害など中毒症状が現れるため、登山の際は窪地などガスの溜まりやすいところでは注意が必要。また単独登山も避けるべきである。

 

 

それじゃアンタそのまんまじゃないか…と思うけど…冗談でも言えない。
ホントに殺されちゃかなわないから。
でも、嫌味を込めて、いつも間違えたフリで“ヒダル”と呼んでる。
いつもそうだとさすがの幽霊でもあきらめが付くのか“ヒダル”で返事するようになった。

Hol 「ヒダル?なんで、よりによって俺にくっ付いてるのさ?中学生の俺にさ」

「うーん…なんとなく、つかまりやすい人がわかるのかな…。そう!アサリみたいな感じで」

「アサリ

「水に漬けたアサリみたいに白いのを出しててさ。いつもじゃないけどね。 それがあると私はつかまって行けるの。多くの人はいつもピッタリ口を閉じてるから、私も無理。ここまで戻ってこられたのも、そうして人を渡り歩いて来たからだよ」

「舌って…そんなのをだらしなく出してるわけなのかい」

「違うってそれが「霊感」っていうものなんだよ。霊が絡みつきやすいものなんだよ。君はそういうところが優れているよ」

…なんだ、それって褒められてるわけ?

「じゃあ、もっと役に立ちそうなのに乗り換えてくれればいいじゃないか。霊能者みたいなのとかさ」

「ところが、お寺とかにも寄ってみたけどさぁ、そんな人が都合よくどこにでもいるわけじゃないのさ。山から町まで降りてきてもここに来るまで何年も足止めになったんだし」

「でもさ、俺に取り憑いたって何もできないよ」

「確かに、中学生じゃねぇ…。だけど、こうして話までできたのは君が始めてよ。…君さ、前にもこういうことあったんじゃないの?」

「前にって…取り憑かれたこと? ないよ

「気づかなかっただけじゃないの? 私はわかるよ。君にはそんな匂いがある…」

「えっ?どんな匂い?」

「いやぁ頭悪いよね“匂い”ていうのは例え

ヒダルはそう言うけど、幽霊と知り合ったことなんか、ただの一度だってない! なかったはずだ…

 

 

 

Syata

「コローンあれぇ…ホントどこいっちゃったのかなぁ…」

あちこち探した。 ずいぶん探した。
古い鍋や壁の穴まで覗いてきたけれどコロンは、どこにもいる様子がない。
この建物は大きすぎるんだな…。
いよいよとなったら「線」を延ばして建物全体を探るしかないか…。
それだと、このゲームのルールにはインチキだろうけど。

わあっ ビックリしたコロン~っ!どこ行ってたの?」

Nagisastan 「…」

「コロンも人…いや、石が悪いよぉっ。 たしかに私の負けだけどさ」

「…」

「…?」

あれ?怒ってるのかな…?私、何か悪いことした?

「ねぇ…コロン… まだ外は明るいし、近くの街まで行ってこようか…」

「…」

「違うコロンじゃない…あなた…いったい誰

Gosthand4th

『うわぁっ

たくさんの手に捕まれて
私の体は、グリグリ コネコネ粘土みたいに千切られそうになったり、丸められたり…
なんとか逃げようとしたけれど、すぐに何がなんだかわけが分からなくなった。

 

 

気がつくと─錆だらけの狭い部屋にいた…

「あや?ナギサン お目覚めしたすか。お早な到着でしなやぁ!」

「あっコロン やっぱり、あれコロンじゃなかったんだよかったぁ

「ナギサン、あやつらがあてに見えましたのだか?」

「いや…そうじゃなくて…えーと…ゴメン…。 それよか何なの、あの人なにも悪いことしてないのに、こんなとこに詰め込んでぇ…もしかして勝手にここに入ってきたから?」

「あっしも良ぉわかりしませんなだぁ」

「面倒だし、こっそり出てこうよ。今ならいないみたいだし、こんな隙間だらけのとこならすぐに逃げられるよ」

「どやかなぁ…あては無理やぁて思いしまはるよ」

「大丈夫。ちょっと様子を見てくる」

ホントのところアイツがなんなのかはどうでもいい。
めんどうなことからは、できるだけ早いうちに逃れるべきだ…
少なくともこんなところに押し込められたんじゃ、相手が善人とは思えないから。

Nagisaesc5

「ナギサン?どなでしかな?」

大丈夫みたい。今はいな… わっ ち、ちょっと待ってお願い私の話聞いてやめてやめてヤメテーっ

Nagidango

「ナギサン、大ジョブか? えらい早いこったんなぁ…」

「あぅ…ナギサン…もうダメぇ…」

 卵の中に入れられて振り回されたみたいに、もうフラフラだった。
なんだか、すごく面倒なことになったのみたいだ。
どうしようかとゴチャゴチャな頭で考えてたら、ずっと前に読んだ『ヘンデルとグレーテル』のお話がよぎってくる。

森で迷った兄妹が見つけたお菓子の家は、恐ろしい魔女の家で、捕まって食べられそうになるというお話。
私とコロンもあいつに食べられてしまうのかなぁ…

Glow

そう思うと、なんだか悲しくなってきた…

                             (つづく)

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2010年11月28日 (日)

ヘンゼルとグレーテル ①

           「わーっとっとっとと…」

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「ナギサーン…危い着陸だしな。落りゃあ石ころかて粉々になりるやす」

「そ…そんなこと言ったってさ…こんな小さいところに降りるの大変なんだよーっ」

「そんに小さなとこすかなぁ…」

私はナギサ。名乗るほどでもない普通の幽霊の女の子。
風に乗って、あちこちへと風任せの旅をしている。
今日は、たくさんの木が生い茂る緑の海をなぞりながらここまで来た。

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もうじき日が暮れてくるから泊まるところを探してた。ずーっと樹海を越えて。
近くに街も見えたけれど、人のこないこういうところで適当なところを探すのは大変だ…。今日のところはうまく見つかったけど、森の中に野宿することになるとイタズラなキツネや腹ペコなクマにからかわれることになるから、それは避けたい。
やっぱり屋根や壁のある建物の中のほうが落ち着くことができる。

「今日のとこわ、ここになりあすか?」

「うん…ほかにいいところも見当たらないしね」

「さきほどな、街が見えられたんだがに」

「それは…コロンは、いいけどさ…」

Dscf4897 コロンは海沿いの町で出会ったお地蔵様の彫られた石の魂。コロンの名前は私が付けた。
それから一緒に旅をしている。

「人間観察」マニアのコロンと私は正反対。
そのコロンは、人から姿を見られることはないけど、私はチラチラ見られることがあるから嫌なんだ。

体があると普通の人。無くなれば怖い幽霊。
人にとって『死』は恐れに他ならないから、その向こう側のものであるべき私は、まだ生きている人から見ると『恐ろしいもの』でしかないのだろう。
それでも私は、ずっとこちら側にいる。まだこっち側にいなければならないんだ。
だから、なるべく『こちら側のルール』に従わなければならないのだと思う。
私は幽霊なんだから…

「ナギサン、人目辛いなんだば人にさ化ければ良しなに?」

「うーん…じゃ明日ね。明日なら少し良いよ…。久しぶりだし少しくらいなら」

こんな私にも数時間だけ生きている人と同じ姿になることができる力がある。
でも、たった数時間ほどしかその体のままでいられない。

春の大地から立ち上る陽炎

夏の朝、深く吐き出された木々の深呼吸

秋の実りから立ち上る豊かな収穫の芳香

そして冬の陽射しの中できらめく氷の粒

そんな、この地上に溢れる「体を作る元」を寄せ集めて作り上げた借り物の体にすぎないから…。

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「わかりったましてや。しかし此処なは大きな根城に見えしです」

「うん。たしかに大きいとこだよ。学校じゃなさそうだし病院かホテルの感じだよね…」

「ナギサン。さっき小さいとこや言ったやねすか?」

「だからあっそれは、そらから見たときの事だって」

「そうでしか?こんだら大きいと下にゃ誰か居るのやもしれねすな」

「うん…そだね。いちお調べておいたほうがいいかも…」

木立が傍まで迫って支えられているみたいな建物。
空から見おろしたときは、滑走路みたいだったけれど、意外と高い建物だったんだ。
いつもは空家とか、橋の下やマンホールなので、こんな大きなところも久しぶりで、まだ少し落ち着けない。
屋上のあちこちは、棘みたいな太い針金がたくさん張り出していて、樹の海に浮かぶ武装した船のようだ。
その異様な感じが落ち着けない原因のひとつなのだと思う。

Colon_jump

「ナギサーン!下は、何しろメイロみたなようでな。あてらは先ん行っておりましすから!」

「えっあっちょっと待ってよコロン

人がいるかもしれないという私にとっての不安は、コロンにとって期待らしく、ホイホイ下へ降りていった。
風に乗るときは私の左腕に腕時計の姿でしがみ付いてるだけなのに…
私も用心しつつ後を追う…。

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あちこちからサボテンみたいに棘を生やした薄っぺらな階段を降りる。
コロンはどこまで行ったのかな…
ふたりでの旅も長いから1人になると不安になってくる。
幽霊になってから、ずーっと孤独だったときは何とも思わなくなってたけど、やはり孤独は辛い。
人に見られるのが辛いと言いながら、人の香りが残る場所の近くをさまよう私は、やっぱり寂しいんだろう。
どうせだったら、人と幽霊が共存できる世の中にならないかなぁ…と思うこともあるけど、そんなことを考えてしまう自分に少し笑った…。

Dscf4927 「ナギサン!遅いますや。でかいナリしてるに、なにやら細げぇとこだねや」

ところどころに光の溜まり場を作りながら奥まで真っ直ぐ続く廊下が見えた。

「わーっ、やっぱりホテルみたいだねもしかしたら病院かもしれないけど…

「なにげで細く分けとりますねや?」

「このひとつひとつが部屋なんだよ。たぶん」

でも、それにしては。まだ何か不思議に殺風景な気がしてた。

「ここなの赤い書いたらありますのは何やでナギサン?」

「これは…字と違うよ。なにかの記号だよ。意味は分からないけど…」

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「人はここだで何しますのかいな?」

「何って…旅行だよ。旅の途中で休んだり寝たりする場所」

「人さは寝ないとそんなにダメんなになりにか?」

「そう…休ませてあげないと弱ってしまうよ。私も夜は毎日眠くなってたよ」

「そらメンドなものでしな。ホンに人は不思議にゃモンでだなよ」

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廊下の左右にある部屋を順に覗きながら、ふと思い出したことがある。

まだ、自分の体があった頃。
こんな風に大きくて、部屋のたくさんあるホテルか温泉に泊まった時のこと─
自動販売機までジュースを買いに行ったら帰りに部屋がわからなくなったことがあった。
全部同じドアで、開けてみたら掃除道具入れだったりして…???!

そうだ…ドアだよ!

「コロン?ここの部屋にはドアのあるところがひとつもないみたいだよ

「そうなすか?あては、ども思いやしまへんねやが」

ドアに気が付くと、他のいろんなことにも気が付いてきた。
壁がみんな剥きだしの冷たいコンクリートのままで、壁紙がはがされた様子もない。
部屋の中もガラスの欠片が散らばっていないから、ずっと前から窓は入っていなかったような感じがする。

Nagisa_on_room

「ねぇ…?古くなってるようだけど、ここ作りかけなんじゃないかなぁ…」

「そすかな。あそこんらには誰か住んどた跡んもあるましたにが?」

Dscf4817 「えっホント

コロンの言ってた部屋には、確かに鍋とか料理に使ったものが転がってる。
埃を被っているので、しばらく前の名残ではあるようだ。

(でも、用心しないと…誰かがいるのかもしれない)

映画の主役になったような気がしてきた。
姿の見えない敵を探して部屋をひとつ、またひとつと確認していく…
こんな大きな建物に来たのは、やっぱり面倒だったかもしれない。
そう思いつつ私もこのゲームにはまり込んでいた…。

Dscf4918 「あれゃ?ナギサン?どこ行きはりましたいなぁっ?」

「シッ!こっちだよ… あっわわわぁあーっ

「なしたか?ナギサン?ナギサン!」

「こっちだよ~っ」

「どっちこでか?あれぁ?ナギサンそんなだとこで何してるだか?」

「落ちたーっ…」

あ~っもうゲームオーバーか…。死ぬかと思った…。(幽霊だけど)

こっちを見下ろしているコロンの顔がすごく小さく見えた。3階分くらい落ちたんだな…
どうやら入ったのがエレベーターの部屋にだったらしい。
やはり作りかけの建物だったようでエレベーターの箱もなかった。

「あても、そこいらに落ちたほがいいですかーっ?」

「いやっいいよぉっ私がそっちに戻るから」

「そこいらはどのようになるてますか?」

「そっちと同じだと思うよ…上よりは広いみたいだけど。階段…どこだろ…」

Nagisa_stand

ここは一番下の階で広く見えるのはロビーだかららしく、さっきの階よりも天井が高い。
湿った泥の流れ込んだ床は動物の足跡に混じって人の靴跡もいくつかあった。
ドキッとしたけれど、そのいずれも新しいものではないようで、人がしばらく来ていないらしいのは、わかる…。

「ナギサンも奇特しはりにますなぁ…」

Colonback3

「あや?ヌシはどちらのモノでっか?」

                                (つづく)

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2010年6月21日 (月)

動かざる湯場

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周囲には植林で覆われた緑の山が幾重にも連なるこの地にそこはあった。

起伏にとんだ道を走る。緑と道、そして空。
それ以外は何もないながら死角の先に何かあるかと期待すれども
風景は、さっきと同じところを走っている感覚に囚われてくる。

やがて緩やかながら大きなカーブに差し掛かったところで、その内側に小高い奇妙な丘をが見えた。
回りの山より変わっているとはいえ、目立つわけではない。でもその一角が無性に目立つのは、そこが瓦礫の山と化しているから。

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Dscf7332_2 『産廃処理場かな…?』

それにしては、趣がちがうように見える。
散らばるコンクリート片。
陽に晒され、のたくる雨上がりの蚯蚓(ミミズ)みたいな鉄筋。
こんな山をいくつも越えた場所には不似合いな不法投棄物。

そこが単なる産廃置き場ではないことがわかったのは、まだ器の形をかろうじて残していたからだ。
でもそこは、役目を終えて解体されたというよりも爆撃に晒された異国の建物のごとき有様…

この瓦礫の山は、ほんの四半世紀前までは、豊かな自然に囲まれた温泉だったという。
昭和52年開業以前より湯治場としてここにあり、小さな小屋を持つ浴場であったが、創業者の悲願により浴場として整備されたとされる。

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Dscf7365 この温泉の側の山には不動明王が祀られていたのだそうです。
元より、こういった湯場や豊かな湧水のあるところには不動明王信仰があったそうです。
不動明王と滝にまつわる伝説は日本各地にあり、その滝と不動明王を結びつけたのは、修験道によるものとされている。
修験道とは、山岳信仰が背景となった宗教で、そこに真言宗天台宗が伝わって修験道は密教と深く結びつくようになりました。

密教の考え方おいて、全ての仏は大日如来の化身であり、中でも不動明王は大日如来の「教令輪身」として、仏法に従わない者まで力ずくで救うという役割を与えられていたそうです。
それだけで、あの恐ろしい形相ではありませんが、不動明王の利益には、除災招福、戦勝、悪魔退散、他。その中には行者守護というのもあり、不動様の印象は、見た目どおり厳しい存在で「静」というより「動」、「涼」というより「焼」な感じがします。
修験道には、心身を清める修行場としても滝が使われる。
不動明王の逸話にも滝で身を清めるという話もあり、修験道の話と相まって、「滝」と「不動明王」の関係が地方へと伝わり、地元の水神信仰との接点で不動信仰が絡み合って水場、湯場に「不動さん」が祀られるようになったと推測される。

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Dscf7357_3 ここもそういった場と同様に不動明王が祀られて霊験新たかな湯に人々が集まるようになっえいたのでしょう。
しかし、開業からわずか8年後の昭和60年、創立者が逝去。
諸般の事情で湯場は引き継がれること無く閉められることとなりました。
街から遠い場所だったため、集客に伸び悩んだ原因か、この時代の背景として人々が中流意識を持てるようになったころで、のんびりしながらも決して背伸びのなかった近場の温泉旅は、「より早く・より遠くへ」という時代を向かえ誰もが海外へ飛び立つようになり、そういう時の変化が、こういった湯場を人知れず閉めさせることになったのかもしれない。

それにしても解体したというよりも爆撃に晒されたかのように惨たらしい残骸の山。
施設としての不動産価値を無くすことで税負担を免れることができるという話を聞いたことがあるけれど、この状況で放置された真意は計ることができない。

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営業当時、ここでは「ラドン」が取り入れられていたのだそうです。
ラドンは自然界に存在する物質で、もっとも強力なイオン化作用〈物質にイオンを与える作用〉があり、温浴中に人体の呼吸により血液中、また皮膚を通して体内に吸収されると、その作用が血液・組織内に働いて、血液内の老廃物質、中性脂肪、コレステロール、過剰な糖分等の生理的代謝作用が促進されるため、血液が浄化
される。同時に組織内に停滞している凝りや痛みの原因とる老廃物の化学反応が促進され、消退してゆく。
また、人体神経組織に対して特殊な鎮静作用を有すという。
入浴後の臨床検査によると、このイオン化作用は、神経系にも効果があるのだそうです。

その効用として

Dscf7378・自律神経失調症
・更年期障害
・めまいや耳なりを伴うメニエル氏病
・冷え症
・神経系頻尿症
・腹部腸管癒着症
・気管支性喘息
・頭部外傷性神経症
・精神身体疲労
・多発性神経繊維膣

などがあげられます。

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Dscf7412 しかし、この霊験新たかな湯は創始者の代をもって閉められた。
そして瓦礫の山となった宿は、栄華の日を語るでもなく、孤独に万感の空の下、冷え切って痛んだ体を陽に当てて癒すのだった。

乾ききった湯場。「不動さん」は既にここにいないのだそうです。
人からも豪腕な御仏からも見放されたような地には、ここが華やいでいた春に彩りの片寄った山にわずかながらも色を添えた花が今も咲き誇っている。

そう それは、あたかも手向けの花のように。。。

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2009年11月16日 (月)

Roka(濾過)

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旅の宿は、少し寂れた感じがいい。少なくとも自分は、そう思う。
ゴージャスで、冬場でも全く窓が曇ることもない設備。外はイルミネーション輝く別世界。そんな自宅とは隔絶した異国感も良いけれど、過去へタイムスリップしたような感覚を得るのなら決して遠くではない近くの昔から続いているような旅館。食事も近場から採れるような山菜づくしとか川魚のおつくりなんかが良いな。。。

Dscf9330 「ねじ式」とかを描いた“つげ義春”の旅の劇画を読んだことがあるから、なおさらそう思うのかも…。
老舗ではないけれど古びている。それでいて掃除が行き届いて清潔感があるから何ら問題はありません。
テレビもほとんど映らない。持ってきた文庫本も読み飽きてきた。
ロビーの本棚を物色しても2~3年前の表紙がボロボロの少年ジャンプがあるくらい…「もう寝よ…」
ストーブを消すと、すぐに室温が下がってくる…そんな部屋だけど布団の中だと暖かいから、ずーっとヤドカリみたいにしている。
照明も立ち上がって消さなければならないのがちょっと難儀。(壁スイッチもいっしょだけど)
小玉ひとつ灯る暗がりに目が慣れてくると天井の越年の黒ずみが何かに見えてきて「もしかして、いわくありの部屋?」なんてことも頭によぎってしまい、部屋の雰囲気も相まって当然不安な気持ちがよぎってくる。
そういう気持ちになるのは、小さいころのひとり寝の記憶なのかもしれない。
Dscf9319 そんなときに限って、部屋の温度が下がっていくのに合わせて天井裏の方から「ピシッ」と柱の鳴る音が建物の端から端へ走っていく。
もちろん「いわく」なんかないところだけど部屋の造り以上のものが部屋に染み付いていることは確かで、それが畏怖の念を呼び臆すのでしょう。
「恐れ」は外から来るものなのか、内から膨らんでくるものなのだろうか?
そんな哲学的な気持ちに囚われるのも部屋の持つ雰囲気なればこそ。

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そういうところが、好きだから好き好んで「置き忘れた景色」、いわゆる「廃」なるところを求めるのだろう。
器のこだわりは、決してない。
ただ、自分をその場に置いてみて、自分の感情の変化を楽しんでいるといった方が正しいことには、かわりない。
「旅」とはそういうものだと私は思う。

Dscf9320 そんな記憶の覚醒遺伝みたいなことが楽しくて短い旅を繰り返す。
もちろん行けるところは高級アンティークというより、使える和骨董という感じが限度です。
そんな旅先が不況とか経営者の引退や施設の老朽化で閉められるのは寂しいものです。
そこまでいかずとも施設を取り壊して新築というのもいただけない。
記憶がリセットされてしまったみたいだから。

旅館が閉められ、固く閉ざされた戸口に雑草や山菜がわんさと詰め掛け、越年以上に鬱蒼としてくる。
記憶にも鍵をかけられたみたいです。
建物が残る限り、記憶は消えることはない。
ここで言う記憶は、歴史に記すことのできない感覚的な記憶です
その記憶の再生装置は、自分自身で再生結果は個々の持つ記憶とのシンクロによって様々に変わるのです。

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踏みしめるごとにキュッキュッときしむ角の取れた階段
風の手触りにカタカタと鳴る窓枠
生き物のごとく自在に飛び回る湯煙
わずかに視界をねじりながら薄暗く通り抜ける廊下
そんな再生記録を持つ旅館も近頃、閉じられたと聞く。
秘湯・銘湯と呼ばれても時代は、ほのかなものに寛容ではなくなったのでしょうか。

Dscf9328旅先は消えつつも旅に終わりはない
誰でも生きている限りね

見えるものが消えていくのは寂しい
見えないものも見ることができなくなるから

宿は 川のせせらぎよりも静かにたたずみ
光をその身に染み込ませ続けている

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2009年10月19日 (月)

アポロ

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「あーっビックリした…人が来るとは思わなかったよーっ

「そうですなんですか?人間はいろんなとこへ来るあるますね…」

「そう…“あるます”だよ…

なんか、恋の話してたみたいだな

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私はナギサ。幽霊の女の子。風に乗ってあちこち旅をしている。
幽霊だけど人が怖い。怖がられたり、信じられないものを見たというような目で見られると泣きたくなってくるよ…。だから半人前の幽霊。もう「人」じゃないんだけど…
いっしょに旅をしている“
コロン”は、海辺の町で出会った石のお地蔵さんに入っていた魂だ。いつもは腕時計の姿で私の左手に巻きついている。

人を避ける私と違って「人」を見てるのが大好きな“コロン”は人に見られることがないというのもおかしな話だね。見られたくない私は、やたら人に見られてしまう。そういうことが上手なのかコロンは、人間好きでやっぱり性格も明るい。言葉はまだメチャメチャだけど教えているのが私だからなぁ…
そんなひき目な気持ちがあるから、たまに塵や霞を集めて人に化けていても人前ではオドオドしてしまうんだ。

Dscf0265_2 夕べ、 “コロン”と一晩休むところを探してここを見つけた。
幽霊は夜出てくるものと自分でも思っていたけれど、いざ自分がそうなってみると見えない闇夜を飛び回るマネは、とてもできない。だから人の来ないような…例えばこういうところを見つけて朝まで過ごしてる。
やっぱり「元は人」だから屋根のあるところで休みたい。そのほうが安全だと思うから。

Dscf0290 その日、見つけたところは、街からそれほど離れていない夕暮れの林の中に埋もれるようにあった。大きなタンクのようなのがたくさん並んでいる。
木や草で覆われて、ところどころが壊れかけていたから「もしや?」と近づくと思ったとおり人が住んでいない。ところが、ここで夜を明かすことにしたものの、窓の開かない暗い部屋の中にいたものだから朝がわからなくて、人の声にあわてて隠れていた。

「ナギサン“ヒトぎらい”だなに、人が来るとこばかりに居ちゃりますな」

「そうだよね。そういうつもりじゃないんだけど…。こういうところに来る人ってそこの写真撮ってるだけみたいだよ。冷蔵庫とかタイヤとか下ろしに来る人も見たけどね。」

「して…ここは、どな屋敷ですかのな?」

「ここ…?んーと…」

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確かに不思議なところ…。
夕べ大きなタンクに見えたのは翼のある同じ形のロケットかミサイルみたいなの。
ズラーって並んで…何かの基地のようだ。
そう、宇宙基地とかいうのかと思った。
中へ入ると先端の方に大きなベッドと発射口の方は、お風呂があって、いくらなんでもこれが宇宙に向かって飛んでいくようには見えない。
昨日、街であった人と入ったところもベッドとお風呂場しかないような暗い部屋だった。

「ラブホテルて言うとりましすた。さっきの人ら…」

そっか…休むとことか言ってたな。昨日の人も。

「そうそう!休むとこ!疲れたら昼寝したりとかお風呂に入ったりとか…」

Dscf0268「ラブ言うたら何でらすか?」

「ラブ…LOVE…?違うよね…?」

休むのとラブの関係というか意味がわからない。

「たぶん、ここの名前だと思うよ」

「家の名札が前に付けあったやら…花の名前でったよ」

コロンったら姿が見えないと思ったら、知らない間にあちこち行ってたんだ。

あっ…そうそうズーッと前にTVの宇宙が舞台ので“スカイラブ”とかいうのを聞いたことがあったよ。宇宙船のことじゃなかったかな」

「ウチウセン─?」

「きーっとそうだよ!アメリカの宇宙船が月に行ったことがあったんだってさ。アポロ…11号っていったっけかなぁ。私が生まれたのよりもズーッと昔のことらしいけど」

「ヒトがあの月まで行きやられるでますか?へーっナギサン行ってみましょな」

「えーっ無理だよォ

「なして?」

「宇宙は空気が無いんだって。だから風も吹いてないよ。だから私でもあそこまではとても行けないよ。誰も住んでないし…」

と言うか、あんな遠くまでは、行くのも帰るのもそう簡単にはできないだろう。
行けたとしても、このあたりでだって風に流されて行きたい方へ行けないのに日本にすら帰れないと思う。

「そすか。アポウロジウチゴは月まで行ったてに…

「うんうん残念だけど…

よっしゃーっなんとか説得できたぞっっ
ちょっと宇宙まではカンベンだよ

「ここは、なでにウチウセンであいます?こっちは家の形なさに」

Dscf0305「そういえばそうだね。こっちだけ普通の部屋だ」

どの部屋も入口は、大きなシャッターが付いてる。中は物がいっぱいで物置になってるようだ。上の方に外国の家みたいな窓があってガラスが割れている。上は何があるんだろう?この高さなら風が無くても入れそうだ。

「あの窓から入ってみよう」

「はいなす」

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「うわーっ壁に毛が生えてるみたい…」

Dscf2690_2 ふわふわした毛が壁一面に張ってあった。

「誰もいませんねや…」

「それはそうだよ。空家だから」

部屋の中はとても狭い。昨日行ったところよりずーと…
ベッドと風呂場は確かにあるけど、ホントに休むだけのところなんだな。

─いらっしゃいませ─

ひっ だ…誰!コロン?」

「違うでした。わたしでは、にゃあです」

「聞こえたよね?どこからか…」

─いらっしゃいませ おふたり様ごあんないします どうぞ ごゆっくり─

…部屋だ。そうか…部屋が話しかけてきてたんだ。

Dscf2696 「夕べは、向こう側に泊まったので…」

─ご延長ですか?─

「いえ!園長じゃないです。先生でもないし…普通の…普通の?とにかく幽霊です」

─幽霊さまですか。存じ上げなく失礼いたしました… ごゆっくりお楽しみくださいませ─

「ナギサン!なにすかここ?つまんないでしわ」

「シーッ!おかしなこと言ったら叱られるよ!お風呂に入って休むとこだって!」

「休むたて、石みたいドッチャリ座ればら疲れねしょ」

「いや!人は家から出かけてる時は、こういうとこで休まないといけないの!」

Dscf2676 「ナギサンもこな狭いとこで休むですか?」

「うん!あるよ。昨日も…」

「きのお?」

「い…いや違うもっと小さい頃さ。生きてたときの」

─お客様方は、当ホテルの趣旨をご存知ではないようですが─

「へっ?ナギサン寿司やて」

「それ違うと思う…。正直、ここは初めてなのでよくわからないです」

─さようでございますか。さすれば本来プライベートなものですが、差し障りの無い程度で現在までのご利用状況をかいつまんでご説明申し上げます。右手の鏡をご覧下さい─

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ベッド脇の鏡が眩く輝きだした。
この部屋の様子を写しているみたいだ。

「ナギサン!テレビだてや。なんでしかね。おやあ?誰か映って来りましよ…」

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「ここが、地元でもちょっと知れたスポットでさ。営業当時から出るって噂があったそうだよ。その影響で閉鎖されたんだとか…」

「ホントっすか?それ超ヤバクないです?」

Dscf2700 「真っ最中に気配に気がついて窓の方を見ると、女がこっちを恨めしそうに見てたとかいう話さ。窓の外になんか立てない高さなのに」

「へぇっ…怖いッすね。自分、そんなん見たら速攻萎えます。で…どの窓ですか?こっち側にはないですね」

「たしかにそれっぽい窓ないなぁ…こっちの棟じゃないか?」

ギャアーッ…

うわっ!…何!悲鳴じゃないすか?今の!」

「うぉーっビビったぁ…たぶんキツネだろ?いくらなんでも昼間っから出ないって…うわァーッ

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「ギャー出たァーッ

「逃げろ

「ナギサン!ナギサン!置いてかねでっ!」

うわぁーっうわぁーっそんなぁーっ

昨日…あのとき時間がこなくて… 爪が緑にならなかったら…
あのまま、あそこにいたら…
うわぁーっどうしよう!どうしよう!なんてことしてたんだろ!信じらんない!

「ナギサン!どうしたでしたか?」

「なんでもないったらなんでもないよおっ
うわーっ うわーっ

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「アキさん?あれなんだろ。UFO

「えーっ どれ?人工衛星じゃないかなぁ…」

「スッゴイ勢いで飛んでったよ…あれかな?アポロとか言うの…」

「それを言うならスペースシャトルじゃないですか?」

「そっかァ!あっちから来たから、さっきのラブホのが飛んでいったのかな」

「ま…まっさかぁ

YOUTUBE/ポルノグラフィティ 「アポロ」

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