心と体

2010年8月25日 (水)

ロビンソン ②

「えっカズが、なんであんな空家にいたんだよ

Night2

「それは…聞いたけど言わないのよ…ずっと黙っているだけで…。警察まで引き取りに行ってくださった先生の話だと、その家で叫び声がしたって通報で警察が要ったらカズが中でボーっと座っていたそうだけど…」

「お前は迎えに行かなかったのか?」

「そんな!仕事中じゃ携帯持てなかったし…警察の話だと、放心状態で何も話せる状態じゃなかったそうで…。でも怪我をしている風じゃないし、こっちの言うことに頷いたりできたから今夜は様子を見ましょうってことなんだけど」

「まさか、イジメとか…」

「先生は、そんな様子はなかったっていうし…」

「そんなのわかるもんか!わかった、俺がカズに聞いてくる」

「いや!よして!今はそっとしておいてあげたほうがいいと思う…」

A0006_001075

「しかし普通じゃないぞ?あんな半分潰れて取り壊し寸前の廃屋にいたなんて!誰かに連れ込まれたとか、何かあったんだろ?」

「そうだけど…こういうことは、あせっちゃいけないと思うのよ…」

「しかしなあ…」

下から聞こえてた親父の大声が収まった。どうなることかと思った…
でも、聞かれたとしても、どう言えただろう…
あの時はギリギリだった。必死だった!じゃないと、自分が壊されるみたいな気がしていた…
あれは今朝、いつも通るあの家の前に差し掛かったときのこと…
いつも気にはなっていたけど、まさかあんなことになるなんて…。

Morning
 
「ん…?どしたカズ!遅刻すっぞーっ!」

「うん?ああ…。あのさ、このボロい家ってなんなんだ?」

House いつもの朝、いつもの通り道。いつもなんだから気にならなくなってもいいはずなのに見上げてしまう家がある。
住宅地の途中にあって、回りはキレイな家ばかりなのに庭木がうっそうとして気味の悪いところだ。人が住まなくなって何年も立っている感じ。
葉の茂る季節になると家は1階の辺りは覆い隠されて、2階しか見えなくなる。
ウチの入っている町内会とは違うからどういう家なのかは知らない…

Kazu1_3「あれ?カズ知らないのか?」

「知らんさ。こいつ転校生だし」

「ここ幽霊屋敷だぜ。殺人があったんだってさ。小3までビビッてこの道、通れるやついなかったくらいだ」

「でるのか?」

Shin_2「うーん…見たってやつもいたけど、どうなんだかなぁ…マスクの女がいたとか、テケテケが入ってったとか、ウソくさい話ばっかだったけどなぁ」

「でも、あん時はビビッたよなぁ…集団下校したこともあった」

「で、ホントのとこ、どうなんだよ」

「デマだろ!殺人なんかなかったらしいし」

「そうそう都市伝説!ウチで聞いたけど、そんな話知らんって言ってたぜ」

「売家の看板あったけど、それもいつの間にかなくなってた」

「ふーん…」

「おい!マジヤバイ!あと5分!」

「今度親にチクられたらDS没収だ!走ろ!」

「おっ!」

─2階の窓に誰かいた…女の人がこっちを見てた。たぶん─

Scool

…………………………………………………………

帰り道。あの家のところ─
朝のことがズッと気になっていた。
家の前をチラ見しながらて通たけど何かいる様子はない…。たぶんあれは気のせいなんだろう…

Flower 「きゃっ

「うわっ

家の方ばかり気になっていたので誰かとぶつかった。

「すいません!ごめんなさい!大丈夫ですか?」

「いいえ…大丈夫。私こそボンヤリしててごめんなさい…。あら?あなたは今朝の…」

「えっ

そうだ!この人は今朝、家の中から俺を見ていた人だ…!
朝っぱらからあんな廃屋の中で何してたんだろ?怪しいよな…でも普通の人だし、異常者って感じでもない。

「あ…あの…この家にいましたよね…?」

「うん。驚かせた?ここは私がいた家だから…。ずいぶん前だからこんなになっちゃったけど、なんだか懐かしくってね…。」

なんだ、そうか。そうだよなぁ。昼間ッから幽霊じゃあるまいし…

Reaf 「…ですよね。てっきり…」

「…幽霊かと思った?」

「いや…そんな、別に…」

「古くってボロボロだけど、想い出がたくさんあるのよ。あなたはどう?」

「いえ、ウチは社宅だし、引越し多かったから家のことなんか…」

「家の種類の問題じゃないわ。帰れるところがあるのは良いことよ。でも、それだけじゃうかばれないわね」

なんだか空気みたいな感じの人だ。目の前にいるのになんだかここにいないみたいに思える。これが大人の女ってやつかな…

「せっかくだから中を見てみない?けっこう楽しいのよ」

「え…でも、この家は…」

「幽霊屋敷じゃないかって?それでずいぶん苦労もしたわ。窓ガラスは割られるし、ゴミは投げ込まれるし…何も悪いことなんかしてないのにね。家を放っておいたこっちも悪いけど」

なんだか、かわいそうな気がして、だから断りにくくなった。
それで、ちょっとだけ家を見せてもらうことに…。

Tv

「懐かしいわ…私の小さい頃。こんなに痛々しく変わり果てたのに…かえって懐かしさが鮮やかに思い出せるの」

ボロボロな家をいとおしむように壁や埃だらけのテレビを撫でている。
でも、こっちにしてみれば薄気味悪くてたまったもんじゃない。
家の中を見てたら薄気味悪くて少し肌寒い感じがしてくる…いや、明らかに寒い。

Dscf7870 「ところで近所の人?」

「いえ違います…ここは学校へ行く通り道で…」

「そう…私のことは知ってる?」

「いや…知らないです。この町に来て3年くらいでズーッと点々としてたから…」

「そっかぁ…引越し多かったんだもんね。私はこの家を出たのは1回きり…。それが最後だったけど…」

「え…?」

「帰りたくて、やっとの思いで戻ってきたのに父も母も祖母もいなくなってた…」

「…」

Dscf7863

「私ね…大学に行って山岳部に入ったの。わかる?山岳部って」

「ああ…登山とかの…」

「そう…そこで色々な山に登ったんだよね。見たことある?いつも頭上にある雲がズーッと下に見えるところって…」

「いや、ないです」

「そこで…足を滑らせて、落ちて…」

「大怪我したんですか?」

「わかんない…動けなかったからたぶんね。でもすぐに助けが来ると思った。だけど…」

もう夕方を過ぎたせいか寒くなってきた。それにしても今日はいつもより冷えてくる。

「だけど…誰も来てくれなかった!いくら待っても何年待っても

「?」

なんだ?なに言ってるんだ?この人…

Wm39「だから…自分で降りたのよ。人を見つけて呼んだけど誰も返事をしてくれない。誰も私に気が付いてくれないの。それに、やっと家へ戻るとこの有様…。信じられる?あれから12年も経っていたなんて…」

あれ…ヤバイな…まじヤバイ!

「お願い助けて私のことをわかってくれるのは、あなただけなのこの家ももうすぐ壊されるそしたら私はどこへ行ったらいいの

「いや…ち…ちょっと待ってください!誰か呼んできます!」

「ダメあなたを行かせたら、また1人になる!そんなのイヤだ…」

「あっ…うわぁーっ

Winky

「えっ?…なに?」

「うんにゃ!あては、なんも言っておらんのだらに…」

「なんか変な声したよ…」

「そりはな、きっと幽霊じゃないすかね?」

「えーっ!怖いこと言わないでよ!…って私たちが幽霊じゃない!ハハハ…」

「それ、どの辺がおもしろかね。ナギサン?」

「いやぁ~っ!気難しいよおっ。コロン!」

「メンボクないすな」

たしかに確かに呼ばれた気がしたけど…たぶん…
モヤモヤした気持ちでいるから空耳なんかするのかな…

…………………………………………………………

あの後のことは覚えていない。
気が付いたら警察官が僕の顔を覗き込んで何か言っている。
返事をしようと思ったけど自分が自分じゃないみたいだった。
それから、どこかに連れて行かれて先生が来たことは覚えている。
先生に家に連れて行かれて母さんに会った時は自分が戻ったようだったけど何を話せばいいのかわからなかった。

「ホントにカズには困ったもんだなぁ…。そういや北海道からこっちに渡るときにも妙なことがあったんだぞ」

「なに?」

「あの、●●にいた時のことさ。2軒続きの借家にいただろ?隣はいつも留守がちだったけど、そこの子と遊んだってカズが良く言ってただろ?」

「ああ…そんなことも言ってたわね。そこが?」

「あの隣な…実は…」

急に親父の声が小さくなって肝心なところが聞こえなくなった。
北海道か…懐かしいなぁ…。●●での海が見える町が一番楽しかった。
ナギサって隣の子と押入れの穴越しに遊んだのが楽しかった…。
たしか…病気であまり外へいけないとかだった。
押入れ越しに話合うのって、なんだか秘密の付き合いみたいでドキドキしてた。
どうしてるのかなぁ…ナギサ…

Dsc00267

「あれぇっ?…まただ…」

「どしたんだらか?」

「いや…なんでもない」

「またソラミミでか?」

「うーん…とにかく今夜泊まるとこ探さないと…もう真っ暗だし」

「あては、この辺でも良かでれすがな」

「この辺はまずいよ!街中だし…」

それにしてもなんだろ…

……………………………………………………………

Wm0016 「ねぇ…私のこと見えてるんでしょお?だったら無視しないでよォ…」

「なんだよ!騙しやがって!俺は子どもだぜ。あんたに何してあげられるって言うんだよ!もっと何とかできる奴のところへ行けばいいだろ?」

「そんなこと言ったって…私…どこもいくところがないのに…。ジャマしないからいいでしょ?…それに人には親切にするものよ。特に女性には─」

幽霊のくせに、なに言ってんだよ!まったく…

…………………………………………………………

Dsc00278

「え…?死んだの?その子…!」

「シーッ!カズに聞こえるって…。ウチがあそこへ入る数年前に防波堤で遊んでた女の子が海に落ちたんだそうだ。で…それが原因らしく、夫婦仲が悪化して蒸発したらしい…」

「え?」

「娘の事故死で奥さんのこと責めたんだとさ。先に旦那の方が家を出て奥さんひとりだったそうだ…。うちらが越した後、様子がおかしいのと嵐で屋根葺き板が一部飛んだとかで保証人に連絡して立ち会ってもらったそうだ。そしたら…」

「そうしたら?」

「押入れにその子の小さな仏壇が置きっぱなしで、回りに飴がたくさん散らばってたんだそうだよ。写真と位牌は無かったそうだけど」

「じゃあ、カズが遊んでた隣の女の子って…まさかそんなこと!」

「ホントだって!あそこの大家の●●さんに聞いたんだ」

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心待ちにしている声に気づくことなく 季節のうつろいをさまよい続けるナギサ

そして 人に見えないものが見えて 接することができる己に気づき始めたカズヒロ

ふたりが出会うのは もう少しずっと後のことです。

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2010年7月21日 (水)

ロビンソン ①

Reafsky_2

どこまでも高い青空の中、風の背に乗って飛んでいる。
私はナギサ。半人前の幽霊─
とは言っても何年も幽霊してるのになぁ…

季節は秋。一面緑色だった景色は、どこまで行っても赤や黄色に染め替えられていた。
風に乗って赤い木立の道を通り抜けるとハラハラと枯葉が舞い上がっていく
もうすぐ冬なんだね。これからどんどん寒くなっていくんだ…

Roop

昔─冬に学校へ通う道の途中に立っていたシラカバの木が骨みたいに見えて、なんだか怖かった。
毎日、目をつぶってそこを走り抜けていたけれど、季節の魔法は何もなかった枝に少しづつ葉を着せる…。
シラカバは白骨じゃなくて、ちゃんと生きているんだから当たり前なんだろうけど、それがすごく不思議だったよ。

「ナギサーン!赤ぃやら黄ぃやらのも見飽きたなんでしなぁ…」

Handskoron_2 

左腕に巻きついたコロン(腕時計の姿をしている)がそう言った。
海の近くで会ったコロンは、近くの山に置かれたお地蔵さんの姿をした石の魂で、今は私と旅をしている。

「そうだよぉ!秋なんだから。冬を迎える準備の前に色を変えるんだよ」

「でもしな、変わらんのもあるじゃしに」

相変わらずコロンの話し方は、おじいさんみたい。
私も教えてはいるけど、元いた山に来ていた人たちの話から覚えた言葉が染み付いているみたいで直らない。
コロンはあまり気にしないし、私もコロンがなにを言おうとしているか大体理解できるようになってるい。

「えっ?…まあ、そういう木もあるけどさ。大きい葉っぱは、ほとんどそうだよ」

「そや!ずっといてた山で、あての上にもボタンボタン落としよりしたならぁ。何しよる思いでんが」

「嫌だった?」

「うんにゃ!ボッけし乗っかる雪よりゃ可愛もんだでし」

「そうか…もうすぐ雪も降ってくるんだね…」

Koufuku

冬は忘れることなくやってきた。
空から来たものたちは見渡す限りの大地にまんべんなく振り積もっていった。
凍てつく空気も緊張しているみたいで、寒そうな日が続く。
もちろん今の私にはその寒さはわからない。

冬は光は、一際まぶしい。
夏よりも真っ青な空は、まるで絵のようで風のほとんど吹かない日もある。
そんな時は、夜に泊めてもらった家にズーッと足止め。
こういうときに人が来て見られたら、ここが幽霊屋敷と誤解されるかもしれない。
だから、ツララから落ちる雫の音にもオドオドしてしまう…

Mayohiga1

Mayohiga2 「ねぇコロン? コロンも寂しくなることってある?」

「ん~っ?そげなん考えるばことは、無しですなぁ」

「仲間…っていうか他の石とは話したことないの?」

「わてらば石ころですからな。そゆな言葉、したことぁないです」

「他の石ころも何か思ったりするかな?」

「思うなことあるだらけんど、知りえませんで。割れて分かれたんでだから話すことも無しでる。」

Ohazikibotun 「人もそうだよ。たぶん何か大きなものからどんどん別れていって小さな自分になるんだと思う。でも、誰かと一緒にいたくなるんだよ」

「それは、何でらすか?」

「うーん…何でって…そういう気持ちになるんだよね」

「それにしたってらナギサン、人嫌いでれしょうに」

う…痛いとこ突かれた…。

Mayohigaroom

「それは… それは私が、もう人じゃないから…だよ」

「…あても今ば石ころでねぃですナギサンと一緒でぁす

「…コロン、ありがと。やさしいんだね」

「いやあ…ナギサンとがトモダチでやすしな」

コロンは照れるみたいに、そう言った…

Sairo

やがて春の風が吹き始めた。空の高いところでは、季節の戦いが広まって運動不足な冬はヒューヒュー言いながら汗をかいている。
だから、かえって春の思う壺だった。
季節の変わり目は、いつも新しい方に部があるんだよね。
真っ白な世界に満足していた冬は、自分が思う以上に力を失っていたことに気づき、勇ましい春の猛攻に領地を追われて、どんどん遠くの山へと逃げだしていく。

春の訪れ。新しい命の季節…
その眺めを目の当たりにしながら心のどこかに穴が開いてどんどん空気が漏れていくような気持ちがするのは、その芽吹きに私が無関係だからなのかもしれない。

Skyhigh

この命萌える世界にいる私はなに?
どこへ行こうとしているのだろう。

「ナギサン!なに考げぇとりますんかな?」

「うん?いや…別に…」

石ころのコロンは、機械みたいに表情のない声で話しかけてくるけど、私のことを気にしているみたいなところがあった。
人を観察するのが好きだけど、私のこともちゃんと見てるんだろう。
人から逃げ続けている私とは大違いだよね。

Fukinotou 「ねぇコロン?生まれ変われたら人間になりたい?」

「うーむ…どうでかんなぁ…。たぶんにそれは、したくならん思いますに…」

「えっ?どして…?人が好きなんでしょ?」

「人らは、己らの見える場所が小さなやうに思みいます」

「…?」

「自分ん中から外を覗いてる風なんだらな。いつもん何か被ってるさのようです。どこか“ぎこちない”しておるようだすな。あてが思うに人ぁ自分になられい生き物でおるししょうな」

「うん。自分の思うこと、したいことだけじゃ社会っていうのは上手くいかないからね。人としての顔っていうのがあるんだと思うよ」

「そういうところさが面白なんやねす。だば!人にならんで、あてはコロコロしながら人を見ちょるんが好きでぃす」

「ふーん…」

白い大地が黒っぽくなり、また大地が緑色になり始めた頃、山の上に追いやられて意固地になった冬のところへ行った。
そこにコロンと同じようなお地蔵様がポツンと立っているところへ来た。
そっと触れてみると中に何かがいるのはわかるけど、応えてはこない。
それが神様とか仏様なんだと思っていたけれど、コロンと出会ってからそうではないと知ったんだけどね…。

Wish

「ねぇコロン?このお地蔵様とは話せる?」

「うんにゃ!石ころ同士は、よう話ませんねや。人のやうに話たり、くっ付いたりはしねいです。同じ塊んから一度離れでば、ひとつに戻ることもなしでれす…」

コロンが人の好きなところは、人が心を交し合えるということなんだと私は思った。
心を交わす人(コロンは別にして)などいない私もやっぱり“石ころ”と同じなのかもしれない。

…いや、そうじゃない。そうじゃないんだよ!忘れるところだった…。
“カズくん”のことを忘れるところだった。
ひきこもりの幽霊な私を陽の下へもう一度出て行くきっかけを作ってくれたカズくんのこと。

        「いつか、会いに来るよ─」

Touge

風に乗って旅することを覚えた私には、カズくんに会いにいくのは、とても簡単なのかもしれない。海で遠くを見ていつも思うのは、向こう側にいるカズくんのことだ。
自転車乗りが上手だったね…あの日が懐かしい。
私がこうして何も食べない、眠ることも無い幽霊として「この世」にい続けていられるのは、きっとその想いがあるからなんだと思う。
だから私は待ち続けている。

Dscf5889

いつ会いにきてくれるだろう。ホントに会いにくれるのだろうか?
それよりも私は、前と同じように会うことができるんだろうか?

その想いが叶ったとき、私はどうなるのだろう。
その日を素直に受け入れることができるのか…

こころのどこかで その日が来なければいいと…

本音の私は、そんなことを思っているかもしれない 

(つづく)

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2010年5月12日 (水)

Anniversary of Angel ⑤

Nightwood

─ 僕の事 思うとき目を閉じて汽車を走らせて
                 聞こえない汽笛を聞くから ─

─ 何度、読み返したかも覚えていないほど前の手紙をまた読み返している。
札幌で就職した翔平からの手紙…
消印の日付からもう5年。翔平が糠平を出てからは、7年は経っている。
聞こえない汽笛かぁ…ずいぶんらしくないこと書くなぁって思ってた。
ベッドの中で汽車のことを考えてみたことがあったけど、ホントに届いたかどうかなんてわからない…

Fb196_2 「それにしても…」

帰りにナギサともう一度会っておこうと思い●●荘へ訪ねたけど彼女は宿泊していないという。勘違いかと他所も、それとなく聞いてみたけど…
しばらく温泉街を歩いたり、湖畔のキャンプ場を見に行ったりしたけどあの子の行方は分からなかった。
携帯に手を伸ばしかけて止めた。
そういえば携帯も持っていないって言ってたしなぁ…

もしや…?という気持ちが頭をよぎる。でも…まさかねぇ。まさか…
あ…もうこんな時間か…そろそろ寝ないと。

◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

Nightspa

「ナギサン?どなんしてレールー出させますのか?あんの娘っこに」

「どうって…そこまでは考えてなかったんだけど…義江さんの“心の線路”を引き出せたら想いを届けてあげられるって思ってさ…」

「そなこと、できれまするかナギサン?」

う…ちょっと単純に考えてたかな…。思わず萩岡さんに頼んじゃったしなぁ…

「うーん…それは、なんとも言えないんだけど…」

「しかしだな、あんの娘ごさん相手んとこは、どなんじゃろ?人は忘れんが得意じゃいし、せっかくな届け物さ“いらん”言うしまりやるかもなん」

うん…相手の人が義江さんのことをすっかり忘れているってことも有り得るんだ。
でも、向こうだって義江さんに会いそびれているってのもあるんじゃないかなぁ…

「おせっかいかな?私…」

「あてらには、よう分かりしまへんねや。人のん心わあ、砂よし細いやすからなあ…」

やっぱりやめようか…勝手に人の心に入っていくみたいなのは、いくら幽霊でもやりすぎかもしれない。いくら事情を知っていたにしても…

「どうしようか…コロン…」

Nightspastreet

「うむ…やったりさいな!ナギサン!」

「えっ?」

「ナギサンなは、迷いる時にいつなも、あてに聞きんす。自分らで決めていてもだす。だら、やりんなさね!決めなださろ?ナギサンは!」

「他人がホンの少し力を貸すってこともアリだと思うよ。深入りもなんだけど。どっちに転んでもその人のためになるんじゃないかな」

そうなんだ。私はいつも自分で決めていた。でも、やっぱり迷うんだ。
義江さんが自分の想いを遂げられないでいるみたいに私も…でもそれじゃぁ…

「私、行ってきますそうしたいと思うんです

「んだ!ナギサン!ここさ寄ったツイデだなし」

「僕らも知り合った縁だしね」

ありがとう …で、こんなところで待つんですか?…」

「へっ?」

Spatrain

◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

Nightwark─ 山の空気が澄み渡っている
この真っ暗な空は宇宙まで素通しになってしまったみたいに星や月が輝いている
それでも先の見えない暗さは不安だから夜は飛ばない。
この暗闇の中に小さな灯りでも見えるとホッとしてくる。
昔、お化けや幽霊は暗闇が好きなんだと思っていたけど
いざ、自分がそうなるとそうじゃなかった。
夜は怖い 人の目も怖い だから人目を避けて人のいないところで夜を過ごす。
そういうところを誰かに見られてしまうと、そこはきっと「幽霊屋敷」と呼ばれてしまうだろう。だから注意しないと…一晩泊めてもらう恩があるのだから。

Nightst 先の見通せない夜は確かに怖い
でも、そんな夜だから昼間バラバラに動いていた人たちも家へ帰ってくるのだろう。
だから夜は、本当はとても優しいのだと思う。きっとそうだよ。

小さな隙間があれば私はどこにでも簡単に入ることができる。
いつかのクマにも「霞(かすみ)」と呼ばれたっけ。
朝の霧みたいに掴みどころがない体…
もう、自分の体と離れて何年になるだろうか。
どこへ行ってしまったのだろうか、もうひとつの私。

昨日見たベッドで義江さんが眠っている。
ずーっとひとりぼっちが長いから寂しいんだろうね。私もそうだからわかるよ。
それでも私にはコロンという旅の友達がいるから救われている。

Uttn 義江さん?
本当は彼の元へ行きたいのでしょう?
それができ
ないのは、きっと彼の心が見えなくなっているからなんだね。
義江さんは優しいから、それができないんでしょうね…。
でも自分の気持ちから逃げていちゃいけないよ。
Magisameta_2生きていく意味を求めてこそ人は生きているんだと私は思う。
そして想いには行き先があるのだから旅をさせてあげたい。
たとえその先が行き止まりだったとしても、それを知らないままに生きていくのは辛いことだよ。

私のできることは、小さいけれど力になるよ。
だからお願い。義江さんの想いの先を教えて!

そっと額に手を当てた。
とても暖かい。命の温度─ 心の温度─。私の温かくなってきた。

あーっ…とても暖…かい─

◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

静かな山の街から 一筋の光が南の空へ向かっていった─

Skyrail

「あっ出た出た!」

「ナギサンやりまったな!」

ヴォーッ!

「落ち着けって!すぐ出発するから!じゃあコロンさん。計画通り路線確認しますんでナギサさんによろしく言っといてください」

「あなん線路は、どんくらい出とらば良しなかな?」

「一度、路線が開けば、しばらく軌跡が残るんですよ。その間に路線を走ってくればコイツも記憶するので開通ですよ。行き先が決まってれば札幌程度なら5分もあればOKです」

「ナギサン願いだぁで、よろしに頼みましわ」

「はい!じゃあ行きます!そうだ…あなた、話し方変だけど良い人ですね」

「んにゃあ、あては石ころだですからに…」

満点の星空の下、山の間を鳥のようにぬいながらやがて、機関車は、空へ登って行く─
普通のSLならば、とても登れないような急勾配をさも当たり前のように…

Railroad

「あーっナギサン!うまくいきただな?今、萩さん共も行きはたよ」

「ホントー?良かった… 私、途中から良くわからなかったんだけど… あ…あれ…?」

「ナギサンどうなしたナギサン

コロンが何か大声だしてたけど、こたえられなかった─
なんだか、とても眠くて…眠くなって…

◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

駅にいた─
ルピナスが咲き乱れている。ここは…幌加の駅?

何かがこっちへ向かってくる…白く揺らめきながらやって来るそれは、蒸気機関車。私は、たぶんそれが来るのを待っていたのだと思う─
そよ風に揺れる花も そしてその間を飛び交う蜂さえも少しも驚かすことなく汽車はホームへ滑り込んで来る…。

Senro
シューッ…

「ほろかーっ ほろかーっ 10分間停車―っ」

停車した汽車の中から人が降りてきた。
顔はよくわからないけど…たぶんこの汽車の機関士なんだろう…


「鱒見義江様ですね?」

「は…はい…」

「ご依頼がありまして、お客様の荷物を受け取りにタウシュベツから参りました」

「タウシュ…えぇーっ??? わ、私…頼んでないですけど…?」

「お友だちのナギサ様から申し受けております」

「えっ!ナギサ?どこにいるんですか?あの子!」

「彼女は、次の旅に出ました。それで当方で伝言を預かってきております」

「はい?」

「『きっと“幻の橋”を見に行ってください』とのことです。それと当方がお伺いしていましたところでは、お客様には、届けたい『想い』がございますとのことと承知しております。ご記憶にございませんか?」

「想い…? え…あっ… あります!あります!

咄嗟にそう返したものの、あまりに急なことで戸惑った…

「お間違いないようですね。そのお届け物はどのような?」

「あ…そうか!どうしようかな… そうだ!汽笛です!汽笛をお願いします

「汽笛?ですか…?」

「そう!彼に汽笛を聞かせてください!」

「かしこまりました。ではお客さまが、先様のことを想う都度、汽笛をお届けしましょう」

「お願いします!」

「あ…あぁ? 夢かぁ…」

自分の大声で目が覚めた。なんかすごい夢だったな…
そうか…ナギサはもう旅立ったんだね…

◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

Kuroishidaira

「うまくいくといいなぁ…」

「何をさ言うかな!こっちさ、ぶったまげいただに!ナギサン倒れてりから…」

「へへへーっゴメンでも、もう大丈夫だよ」

「どせならば、あの汽車ん乗ってたらば楽やかったになぁ…」

Kuroishi 「そう?でも私は風に乗って空のほうが好きだよ!コロンは乗っていたかった?」

「わだば地面近しほがいいだすがなや。でもん、ナギサンとこ一緒に行きますわ」

「ありがとっ!コロン!」

「…んで、そこな石ころさは、座ったらイカンにでなか?」

「えっ?うわっ!ゴメンなさい!知らなくて…」

「次は、どこさへ行きまするかナギサン?」

「うーん…風まかせだよ。風まかせ…行こっ!」

「あいな!」

─ そういえば、あの時…途中からわからなくなったとき
           ─義江さんの想いの先にいる人を見たような気がしたよ…

◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

Dscf7767

今年のスキーシーズンも忙しかったなぁ…あとGWさえ過ぎれば、まとまった休みが取れそうだ。

「義江ちゃん!義江ちゃん!」

「あーっ おばさーん、こんにちはーっ」

「ちょっと!あの子がさぁ、翔平が来月くらいに休暇とって帰ってくるとか電話よこしたのさぁ。それで教えとこうと思ってね。ハッキリした日は言わんのだけどさ…」

ホントですか?…もしかして誰か連れてくるとか…?

「そーんな器用な子じゃないよ。まったく…仕事が恋人だぁ!とか一人前言ってくさるけどね。電話だって半年振りだよ」

「でもぉ!良かったじゃないですか!ひとり息子さんなんですから」

「そうだけどね。私ぁ義江ちゃんに会いに来るんだと思ってたけど?」

「いいえーっ!しばらく連絡してなかったですし…」

「 “義江はどうしてるーっ?”とか、たまに言ってたよ」

へへっ!そうですか?戻ってきたら教えてくださいよ!」

「うん!そうするわね」

そっかぁー ホントに届いたんだなぁ…汽笛。
ありがとーっ!ナギサーっ!

あの子─ 私のところに来た天使だったのかもしれないね…

Nagisainsky

To be 「夏草の線路」 「ルイン・ドロップ」オリジナル版 

              「プチ・ドロップ」改訂版

youtube/“Anniversary of Angel” Ari project

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2010年4月19日 (月)

Anniversary of Angel ④

Rake

「いったいどこにあるんだろう…?」

幻の橋はすぐ見つかると思っていたのに山の間を塗りつぶすように広がる湖をぐるっと見渡してもそれらしいものは見えなかった。
もう通り越してしまったのかもしれないなぁ…

「海のごとか有様でなが」

左腕のコロンが時を刻むのを忘れもしないでのんびり辺りを伺っている。

「うん…」

一方通行の風の中、自由自在に飛んで探すのは難しい。ちょっとあせりが出てきた。
…なに焦ってるんだろ? 私…“幻の橋”を見つけてなんとかできるのだろうか?

Rake2

「コロン?」

「あいな?」

「その橋って“願い事”を聞いてくれるものなのかなぁ…」

「“願いぃ”?ナギサン何、願いあるとやな?」

「…義江さんのことだけど…覚えてる?さっきの話…」

「あーっ!会いたかヒトいるよしかのことらか?ナギサンそいつらなとこさ行って『会ってやれや』さゆうたら良いのだば?」

「えーっまさかっそんなことできないよぉっ!」

さっき聞いた義江さんの話…できるものなら何とかしてあげたいとは思う。
でも、札幌の相手の男の人の居場所は知らないし、聞くわけにもいかない。行けたとしても幽霊の私が何言えばいいだろ…。怖がられたり、怪しまれたら意味ないじゃん。

「あても、たらふく目ェ前で手ぇ合わせれ申したが、叶えてやらなろうにも、こちも動かね石ころん身だすたからなぁ…」

「やっぱり?そうだよね…」

コロンも元々、石の仏様で随分お参りに来た人がいたそうだけど、願い事されても聞きようがなかったそうだ。「幻の橋」だって同じことかもしれないよね…願い事ってどこへいってしまうのだろう…

「ナギサン?あれだねだか?ハシは!」

「えっ!どれ?どこ!あっそうだ!橋だ!」

ぐねぐねとカーブする大自然の景色の中に灰色の横線が見えた。その途中に小さく挟まっている物がある。
湖の向こう側の山から強い風が吹き降ろしてくる。その風に乗り換えて一気に橋を目指した…
あれ?またあの香りがする。石油のような香り。この近くに家があるのかもしれない。
少し用心して行こう…。切り株が点々とある岸に下りて斜面を登っていくと橋はすぐに見えてきた。

Nagisataush_2

「これ…が“幻の橋”?」

ボロボロになって今にも崩れ落ちそうな姿の橋。“幻”というくらいだから姿を現したときは、さぞや神々しいと思っていた。近くにあって、いくつか見た橋たちも古いとはいえ、こんなに痛々しくはなかったのに…湖に沈んでいたと言うけど、それでこんな姿になってしまうものなんだろうか?

「ナギサン!ダメやわこいつ、すでに抜け殻でやす」

「なに!なんで?どういうこと?」

「あてと同じに魂は抜けん出てどこかへ行きよらしるよなぁ…」

Bligeon

抜け殻…? それじゃ『願い事』なんて無理じゃない…
確かめようと橋にそっと触れる…ホントだ!何も感じない。橋自身は、もうここにはいないんだ。
とっくに“自分の旅”へ出てしまったんだろうか。
心のどこかで期待していた分、ガッカリした。いったい、どこへ行ってしまったんだろう…

「へーっヒトは、こんな橋さら何で見に来んだかね。こな数多に残しをしてて」

「何を残してるの?」

「ヒトさ思いが石ころんごとしに散らばってまわ。ここん石よか多いやも知れねし」

「そう…」

そんなにたくさんの届き処のない『願い』で、橋は囲まれていたのか…。

「おっ!おっ!来ますわナギサン!」

「何がぁ…?」

「汽車でさ。除けましんと」

「そんなバカな!ここは…」

ボーッ

「はっ!」

Cometrain

ホントだ!来る!何かがこっちへ向かってきてる!
真っ白い煙を吐きながら白っぽいものが走ってくる!

「ヤバイよ!コロン逃げよっ!」

「へっ?何でらす?除ければなしも…」

私より先に気配を感じていたのか、風は逃げたようにいつの間にか治まり静まりかえっていた。その中をどんどん近づいてくる機関車!
すぐにこの場を離れるには風が無いと無理だ。

「いいから!とにかく、あの森の中へ!」

何だかマズイ気がした…たしかにあれは機関車のようだ。しかもあの汽車は幽霊機関車だと思う!レールもないところを走ってくるくらいだから…。
本で読んだことのある幽霊船にしてもそうだけど乗り物の幽霊はロクなことがない気がする。だから、関わらないほうが良いだろう。

「ナギサーン?なんでま隠れるすか?」

「相手の正体もわからないのに平気でいられないじゃない!特にこういう世界は!」

「こゆ世界?」

来た…来た!来た!

カタン… カタタン… カタタン… 

Taushtrain

後ろから、ありもしないレールを食む車輪の音が聞こえる。
森の中から様子を伺うと今にも崩れ落ちそうな橋の上を大きな機関車がゆっくりと、それでいて何の迷いもなく渡ってくる。

「ナギサン?あれ…橋を渡るば、こちの方へ来るやなますかいな?ここも奴どもの道やろ」

「え…!」

そうだ!橋は真っすぐこっちへ続いてる。…ここも線路があったところ?
隠れなきゃっ!

「ほらー、こち来ましるわ、ナギサン」

「わーっ!わーっ!隠れようって!わーっ!」

ボーッ!ボッ ボッ… シューッ… シューッ…  

ギィーッッッ…

うわァーッ見つかった!機関車が停まる…
でも、それ以上隠れようとすることができなくなった。猟師に見つかった野ウサギみたいにそこから動けなくなった。
「怖い」という気持ちで頭の中がみるみる染めかえられていく…

シューッ…

大きなため息をついて汽車が止まった。
テレビで見た汽車は真っ黒だったけど、目の前にいるのは透き通るように白い。

「こらあ、おおげさん奴ですなぁ」

「シッ!静かに!」

相手の出方次第では…。いつでも「糸」を飛ばすつもりではいるが、このクジラのような車体を何とかできるだろうかは、とても心配だ。
とりあえず相手の動きは見逃さないようにしないと…

Forestrain

「停車―ッ 停車―ッ タウシュベツ臨時駅-ッ」

ボッ…ボーッ

わーかってるって!ホンッ…とに時間とかうるさいねぇ!ダイヤなんかもう関係ないのにさぁ…」

大声がして、人影が中から現れた。

「やぁこんにちはーっ!乗ってかない?」

軽く話しかけてきたその人は、機関士という感じじゃなかった。

「乗るます!乗せるやん!」

ょっとぉーっ!コロンっ、やめときなよ

「いですやん。風も無しこつですからに。ここおってんも、どこも行けんでらに?」

コロンには用心というものは解らないんだろうか?まいったなぁ…
普通、知らない人のくる…乗り物にハイハイと乗るものじゃないじゃないか!

「どこまで行くの?」

「いえーっ!すぐ近くの街なので…」

「あーっ糠平だね。いいよー! おいっ!少し寄り道しようよ」

「だば!乗るます乗るます!」

あ~っちょっとぉーっ!コロンったら…サッサと乗り込んじゃった。

「始めまして、ボク萩岡です。こいつは…ホントの名は小難しいなぁ…SLがいいね」

「ナギサです…始めまして…」

Dscf0208

「こんにちはーっ!おばちゃーん」

「あら!義江ちゃんかい。なに、休みでなかったの?」

「はい!ちょっとヘルプで…ところでお客さん戻ってます?“ナギサ”って子」

「えっ?うちにお泊りさんは来てないよ。週末まで予約ないし…」

「あれぇっ?違った? ●●さんの方だったかなぁ」

「●●さんとこ、改装で臨休してるしょ」

「あ…そうか…」

え…?じゃあナギサさんはいったいどこへ?

「誰?知ってる人?」

「いえぇっ!いいんです。カン違いでした。そういえば…翔平君どうしてます?」

「さぁーっどうしてるんだかねぇ。電話しても『仕事中だから!』ってナンボも話さんしねー。ま、あの様子じゃ元気なんしょ!おなか痛めて産んだ子だのに顔も忘れるべさ!」

「そうですか…すいません。また来ます…」

「ああ…お父さんによろしくね。来年もワカサギ釣りには来るんでしょ?」

「はい!伝えときますっ」

あれぇ…?たしかにここに泊まってるって聞いたはずだよね…なんで?
カン違いかなぁ…。じゃあ、どこにも泊まらないでいったいどこに?

Trainon

ガタタン… ガタタン… ガタタン… ガタタン…

「あのぉーっ…」

「はい?なあに?」

「このSLさんって、もしかして…」

「うん!霊だよね。僕らと一緒の」

「レえェ-?汽車にんも幽霊なるでか?」

「なるともさ。魂もあるわけだしね」

「こなん、バカ大きのは初めてでわなぁ」

ボーッ!

「ホーラ怒ってる。コイツけっこうプライド高いんですよ。それに、これでも標準スケールなんだし」

「どこへ行く途中なんですか?」

「いやぁ、目的地はないですよ。走り続けるだけさ。こいつの未練だったし」

「未練…?」

「走るために生まれたんだよ。ところが、コイツが走っていた路線が廃止で現役引退したらしい。時代はディーゼル化が進んでたから、そのまま記念公園入りで走れなくなったんだよ」

「よっぽど走りたかったんですね…。どこで知り合ったんですか?」

「ボク、昔から旅好きでさ。コイツのいた駅跡にも行ったことがあるんだよ。生前の旅を辿ってきてコイツと会って走りたがってるのを知った…それからさ」

ボッボーッ

「OK!わかったよ!ちょっとゴメン。レール敷いてやらないと」

「レールぅっ?」

Railshot

聞き返すまもなく萩岡さんは、ムチのようにふた筋の光の矢を飛ばした。
光の筋が森の先をなぞり、SLはその筋に吸い付くように道を変えていく…。

「ナギサンも、あゆの出しまらすな。岩を割ったりしるときのな」

「私のはぁ…もっと細いのだよ。岩の隙間に入りこめるくらいの…」

幽霊も人によっていろんなことするんだなぁって思った。

「よーしと…こいつ頭が固いから路線跡しか走らないのさ。線路の記憶をね。でも、軌道跡がすっかり壊されてて続きを見失ったり、先が終点だったりした時に線路の記憶の替わりに延長してやるんだよ。今走ってきたところは旧線だったから後で敷き直された新線との付け替え部分は曖昧なんだ。たまには線路も無かったようなところも走るよ。空に向かってとか…」

「へぇ~っ妙なんことするにゃねっ」

「そうですか…それであんな風に… ん…?

─夢 記憶 旅 SL レール 橋 願い… 頭の中で、今までのいろんなことが、クルクルとよじれて1本に絡まった。そしてある考えが─

「あの…すいませんお願いがあるんですが…」

【つづく】

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2010年2月 8日 (月)

Anniversary of Angel ③

Dscf0639

森の中の道は右へ左へ そして上に下にと激しく身をよじっていく。
時折、タイヤの跳ね上げた石が車の底にボコンボコンと当たるので、さすがに義江さんも運転に慎重になっているみたいだ。

「あのーっちょっと話してもいいですか?」

「えっ?ええ…かまわないよ」

「なんだか…すごい道ですね」

空の上からいつも見る大地は、高い山もウネウネと体を横たえる川も木立の連なりも、みんな平らに見えているから、こんな道を走る車に乗っていると地震の中にいるみたいで怖くなってくる…

「うん。本来、営林署の作業林道だからね。普通の道みたいに整備が行きとどいてるわけじゃないからね。でも、前はここもシーズンに開いていて誰でもタウシュベツの橋まで見に行けたんだよ。“幻の橋”の名前が広まってからたくさんの人が通ったけど、事故もあったものだから許可をとってゲートの鍵を借りないと通行できなくなったのよ。そのかわり橋の見える湖の対岸に展望台が作られてるの」

「やっぱり、普通の車じゃ難しい道なんですか?」

「いや…私は、ここへ来るのは、始めてだから…タウシュベツを見に行くのも始めて…」

「えっ?」

初めて?この辺りの橋のことに詳しいのに?
それを聞くとハンドルを握る義江さんの横顔は、なんだか不安そうに運転しているように見える。訳を聞きかけたけど、いけないような気がして言葉を飲み込んでしまった。

Caronbadroad

「4キロって聞いてたけど、こういう道だと長く感じるね」

「はい…」

先に待ちうけている幻の橋にロマンチックなことを感じていたのに、言いずらい何か不安な気持ちが湧き上がってきた。
こんな奥地に機関車が走っていた線路が本当にあったんだろうか…

「その橋が使われていた頃は“幻の橋”と呼ばれるなんて思われてなかったんでしょうね」

「…」

Dscf0624 あれ?聞こえてない?
心がずーっと奥に続く道に奪われているみたい…
と、いうよりも運転していることも忘れて心がどこか他所へ行ってしまったようでもある…

私もなんだか重い気持ちがしてきて黙って脇の森を見ていた。
小さな木や大きな木が入り乱れる中に時折、倒れたり根元から折れて朽ちかけた大木も見える。鮮やかな色の苔がむして、妖精が出てきそうな雰囲気がする。
幽霊の自分が妖精の話なんて…変だな…

ミラーに映る後ろの景色に砂利道から舞い上がった砂埃が、怪物が追いかけてくるみたいに見えた。

「あっ!ここだ!たぶん…」

義江さんの声にハッと我にかえる。
しばらく想いにふけっていたことが霧のように消えてしまった。

さっきまでの木々が覆いかぶさってきていた道は急に開けた場所に変わり、空がすぐそこまで降りていた。
もうすぐ“幻の橋”を見ることが出来るんだと思うとドキドキしてくる。

Dscf0629

「ここから歩くんですか?」

「ダメ…」

「はい?」

「ごめん!…私、やっぱり行けない…」

「えっ?どうしたんですか?ここまで来たのに…義江さんも始めてなんでしょ?」

Dscf0631「うん…そうなんだけど…私は行っちゃいけないんだと思う。まだ“幻の橋”には…。だから行ってきて。そこの木立の間の道を行くと、すぐ橋は見えるはずだから…」

横へ目をやると、ありがたくないことの書かれた看板が見えた…

「あんなのが目に入って『行ってこい!』って私も酷だよね…」

「何か…訳があるんですか…?」

「うん…」

─あれは、高校2年の冬、ぬかびら源泉峡発のバスは泉翠橋に差し掛かかる。学校へ通う道をもう何度走っただろう。
利用客もまばらな路線バスは、清水谷に差し掛かるあたりには、いつも私と温泉宿のひとり息子の翔平のふたりっきりなことも多かった。
温泉街からいくつかのトンネルを越えて、山が両側から道側へと狭まってくるあたりに泉翠橋があり、そこからすぐ脇に平行に並ぶ古いアーチ橋が見える。

Dscf6391

「旧国鉄士幌線アーチ橋梁群」の礎にもなった始めの橋「第三音更川橋梁」。ウチの車からだと見えないけれど通学に乗るこのバスからだとアーチのカーブまで見ることができる。
私が父さんと糠平に越してきたときは、旧道の古い橋だと思っていたけど、それにしては幅が狭いし、ネットで調べると「NPO法人ひがし大雪アーチ橋友の会」っていうところをに詳しく載っていて、この辺りを走ってた鉄路の遺構なんだと知った。

Dscf6403 「ねぇ?あの橋渡ったことある?」

「あぁっ?ねェーよ!俺が生まれるズッと前から廃線になってんだし…」

横で半分居眠りの翔平は、長い道のりのバス通学にホトホトうんざりしているらしい。
私は、この時間が好きだ。
乗る人もまばらで、私たち以外の乗客がいないこともしばしば。
そんな大きなバスの中でふたり並んで座っている。

「どうして、ここにアーチ橋は、とり残されたのかなぁ…」

「あれ、一番古いし、“登録有形文化財”だかになってるんだってさ。ちょっと下流に元小屋ダムがあるから解体やったら影響するんじゃないか?今じゃバイカーとかいっぱい来るから観光にひと役買ってるってことだろけど」

学校へ向かう道すがらのアーチ橋のほかに私たちの住む糠平の街のキャンプ場から近い場所にも“糠平川橋梁”がある。

その先の三国峠にも十勝三股まで伸びた鉄路の途中にいくつかの橋が残されている。
父さんと幌加の温泉へ向かう途中にも大きいのがあったなぁ…たしか“第5音更川橋梁”とか言った。その手前の林道を湖の方へ行くと有名な幻の橋“タウシュベツ川橋梁”…

Dscf6366

「ねぇー、翔平?タウシュベツの橋は、行ったことある?」

「あるさー。何回もー」

「で!どうなのさ

「どうって…カメラ持った奴とかカップルとか…いつ行っても大勢いるよ」

「えーっいいなぁーっ。私1回もない!」

「あったろさ!五の沢からワカサギ釣り行った時に」

「えーっあんな小っちゃく見えるのなんか行ったうちに入んないよ!」

「行ってどうすんのさ。ボロボロだよ。なんであんなのみんな見に行くのかな?」

「橋ってさぁ、こう何ていうか、別々のところが出会う場所じゃん」

「うん…?」

「そうなのさ!でさぁ!その橋が現れたり消えたりするんだから、これはもう奇跡の橋っしょ?」

Dscf3213 「ダムが冬に水、抜いてるだけだって!」

「ねーっ!暖かくなったら行こーっ!自転車で!」

「アホか?自転車って…遠すぎるってよ!林道通るのにさ。無理無理!俺でも無理っぽい!」

「頑張る

「義江の親父に乗せてってもらえばいいじゃんよ!」

「ふたりだけで行くから意味があるんじゃん

「あーっ…あんまり大声出さないでね。安全運行中ですから!」

バスの運転手さんが私の大声によほど溜まりかねて注意された。

「ハハハ…やばいヤバイ!」

「ヤバイじゃねーよ!俺は旅館の息子だって面、割れてんだぞ!」

「じゃ連れてってよ!お願い!でないとまた騒ぐ

「無茶いうなよ…わかった!免許とったら一緒に行こ。それでいいだろ?」

「いいよ!それまで私、ぜったいタウシュベツへ行かない!初体験は翔平とって決めるから」

「それ、どういう意味?」

「さーねー」

「いやーっムカつくなぁ…」

私にとってそれは、真剣な約束だった。
翔平はどの程度考えていたかはわからないけれど…

春、卒業を控えた3年生の私たちは、橋の話はしなくなっていた。
翔平は、前から聞いてた札幌の専門学校へ行くことになり、私は父のコネで地元の温泉ホテルで雇ってもらえることに…

離れ離れになってもしばらく手紙とか電話のやり取りはしてた。
けど…
行楽シーズンに忙しさが倍増するホテル業は目が回る。特にスタッフの少ない今のところは。私も連絡が億劫になり、そして、魔が開いていくと気が引けるようになっていった。

もう何年もたってしまった…翔平はどうしてるだろう…
たまに寄る翔平の家(旅館)で聞いた話では、札幌で就職したらしく、もうずーっと帰省もしていないようだった…。

「旅館経営も大変だからねぇ…この不景気の世の中、あの子に旅館を継がせるのもどうかと思うよ…」

近くにいながら橋は、どんどん遠い存在になっていった…
ホテル業務でお客様から橋のことを聞かれたり、北海道遺産にタウシュベツ川橋梁が認定されると、ロビーにポスターが貼られるようになったことも避けられない重荷になっていた。
でも、負けちゃいけないと休日には思い出を辿るように橋(タウシュベツを除いて)を見にいくようになる。今は、使うあても無い写真を撮り歩くようになった。
あえて橋に夢中になることで孤独感みたいなのをごまかせたんじゃないかと思う…

「そうだったんですか…」

「もう、ふんぎれると思ったんだけど…ダメだな私…」

「電話してみたらどうですか?」

「いや!いまさらできないよ!何年も経っちゃったし…」

「でも…まだ、あきらめちゃダメですよ!だから今まで“幻の橋”へ行かなかったんでしょ?」

「うん…」

「もう、帰りましょう!」

「エッ?」

「橋は、また現れるんでしょ?いなくなるわけじゃないし…きっといつか見に来れますよ」

「うん…そうだね!」

木立が後ろへと逃げていくのを眺めながら思い出していた。私のあの夏の日のこと…

Dscf6150

私がまだ、引きこもりの幽霊だったあのころ。
自分が死んじゃったことも知らないで外へ出て人に悲鳴を上げられたのが、あまりにもショックで、自分がどういうことになったのかわかってきた。
取り返しのつかない間違い 戻らない時間 ひとりぼっちの部屋でハッカ飴を舐めながら同じ本を何度も読んでいた毎日。
そんなある日、隣にカズ君が越してきて何かが変わった。そして押入れの穴越しの付き合いになった。
不思議なことにカズ君は私の声も聞こえたし、飴を差し出した私の手を幽霊とは思わなかったんだ。

Dscf7041

会いたい! 会って顔を見たい!
この腕を出せるくらいの穴から潜り込むのは幽霊の私に簡単だけど、そうじゃなく人間として会ってみたい。
そのチャンスは意外と早く来て、明るい月夜の夜に出会い、月明かりの海辺を自転車に乗せてもらって走ってきた。
カズ君は私のことを少しも怪しいと思わなかったし、むしろ私が幽霊とも思わなかったんだろう。それがどうしてなのか私にはわからない…

Nagisachick自転車の後ろでカズ君の背中にしがみついたその夜、私は恋に堕ちていた。幽霊の私がね…
その楽しい日はあっという間に過ぎて、カズ君はお父さんの都合でまた引っ越すことに。
その日、さよならが言えなくて部屋でジッとして留守のフリをしていた。

「いつかきっと会いに来るよ」

私がいたのを知ってか知らずか、その言葉を残していった…
私は…私はたぶん、その言葉を信じてるんだと思うよ。
でもさ…その日が待ちどおしいような、怖いような…
どこまでも青くて高い空をいく風の中にいるときでさえ、ふと考える…

「ナギサ…?!」

「あ…はいっ?」

「何度も呼んだんだけど…どうしたの?」

「すいません!ちょっと考え事してて…」

「せっかくだから他のアーチのところに来たんだけど…」

あれ…戻る道の記憶がない…
いつの間にか舗装の大きな道に出てて、長い橋の上にいた。

「ほら、そこ」

Dscf6344

こっちの橋と並ぶように古ぼけてはいるけど、足長の大きなアーチ橋が谷間を悠々と跨いでいた。両端は藪の中へ埋もれていっているけれど長いのは想像できる。

「これはずいぶん長い橋ですねーっ」

「109mあるんだって。タウシュベツのほうが130mで一番長いんだけど」

♪♪♪♪ ♪♪♪♪♪ ♪♪♪♪…

「はい! 鱒見です。 はい、はい… そうですか…いえ、わりと近くですけど…。そうですね。30分ほどで、はい。了解しました」

携帯電話をパタン!と折りたたんだ義江さんは、大きなため息をついた…

「ごめん!急にヘルプ入っちゃった!」

「仕事ですか?」

「うん…よくあるんだけどね。こういうこと…」

忙しいんだなぁ…
私は、大人の世界を生きたことはなかったし、今も昼と夜の違い以外、時間の感覚ってないし… もっとも左腕のコロンがいるから時間というものはわかっているけど、時間に追われるような過ごし方はしたことがないから。
でも、一生懸命仕事に打ち込む生き方もしてみたかったと思う。
いまさら望んでも、それは仕方のないことだけど…

Dscf0219

「ここでいいの?旅館まで送るよ」

「いいえーっ!もう少し散歩してきます。お仕事頑張ってください」

「もう…明日には発っちゃうんだっけ?」

「はい…またいつか来ますよ」

「良かったらアドレス教えて」

アドレス?…あーっそうか携帯電話のことか…
まさか幽霊だから携帯持ってないともいえないなぁ…

「すいません…私、持ってきてないんです…」

「そっか…ひとり旅で携帯もうっとおしいしね」

「うん、でも大丈夫」

「じゃ、またいつか…」

「はい、ありがとうございます。楽しかったです」

義江さんの車はブーンと走っていった。
後ろのガラス越しに手を振る姿が見えて私も手を振り返す。
気がつくと爪の色が緑に変わりかけていた。
ちょうど、この体の時間切れ。

Handspark ナギサーン…橋ば見たいかったでよ…ずーっと静かば守りいたに…」

あっ!コロンのこと忘れてた…

「いや…あの場合仕方ないでしょ?」

「見たきたいでれっすーっ」

「えーっ見たら願いが叶わなくなっちゃうでしょーっ」

「そな橋はカミサマならすか?そなん、なお行かんばならすよ?義江さんだらの願いさ伝えにん」

「…でもー」

「ナギサンひと飛びにゃすし、すっと行けるりよ」

「うーん…わかったよーっ…」

確かに私がその橋に願掛けしてるわけじゃないし
橋が願いを聞けるなら会っておいたほうがいいかな…

Nagisafeedback2

時間切れの体を解き放って風に乗った。空の風は、不安定だったので湖面を撫でるように走る風に乗り換えて湖をさかのぼって行く。

ボーッ

Dscf6364

あれ?どこか遠くから、また変な楽器みたいな音が…

(つづく)

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2010年1月 9日 (土)

Anniversary of Angel ②

Raketop

ようやく憂鬱な朝が来た。
昨日ここへ降りたときに知り合った義江さんと、この公園で待ち合わせている。

Nagisariver私は、ナギサ。実は幽霊。
生きてる人のフリをしているけど、この体は空や大地に散らばる『命の欠片』を寄せ集めた急ごしらえの体は、4時間位が限度。
その前に元の形に開放してやらないと、この柔らかい体も小さく縮んで石のようになって私自身が中に閉じ込められて出られなくなってしまうらしい。今のところそうは、なったことはないけれど、両手の爪が緑色に変わってくると時間切れの合図。それは何度も見ている。

Ruin

義江さんが旅館まで迎えに来ると言ってたけど、泊まっていないのが嘘だとバレてしまうから断ってバス停で待つことにしていた。
バレたとしても、まさか私の正体が幽霊とは思わないにしても怪しまれることにはなるだろう。
私の知らない間に世の中は進んでいるから『幽霊博物館』みたいなのがあって、そこへ入れられてしまうかもしれない。そうなっちゃうと困るなぁ…
陽が昇ってきたとき、遠くへ逃げてしまえばよかったと今になって思う。
それができれば苦労は無いんだけど…約束しちゃったしなぁ。

Coron「ナギサン、丸干し橋見に行くでのだすか?」

左腕の時計の姿で絡みつくコロンが言う。

「うん…約束しちゃったし…。コロンはどうするの?一緒でなくてもいいけど…」

「いちお、あてらも行くだますよ。丸干しゆの面白すならだなか」

「いいけど…ずっと左腕にいてよ!

Busstop_3 「なでるすか?」

「あの人に聞こえないにしても、いきなり声をかけられたら私が驚くでしょ…」

「でもな 昨日の日はバレぬなんしたよ」

「とにかく、私が“いい”って言うまでは、おとなしくしててよっ」

「御意たでござる」

人間好きのコロンは、こんな山の中で人に会えたからご機嫌らしい。
早くにこの辺りに来たけれど、人は見かけなかった。
旅館とか、お店とかの中に入ればいるのだろうけど、建物がたくさん並んでいるけど、時折通る車以外、人を見かけなかった。

プップー

Glasball「あっ来た!」 もう後には引けないなぁ…

「おはよーっゴメン、だいぶ待った

「おはようございます。私も今来たばかりで…」

「夕べ、ちょーっと寝つきが悪かったもんだから…」

「えーっ寝不足ですか。大丈夫?」

「ううん大丈夫。まぁ、ここで立話もなんだから行こっ」

「はい」

Ek057 義江さんの車は街を通り抜けて山道を登って行く。

「義江さん、ここの生まれなんですか?」

「いや!私は父の仕事の都合で高校からこっちに来たの。ここからバスで本町の学校までね。ナギサさん、どっちの学校?」

「わ…私…海の方で…」

「海かぁ…もう何年行ってないかなぁ。日帰りで行けないわけじゃないけど…私、方向オンチだからダメね。遠いところは」

「私もそうですよ。いつも風任せです」

「えーっ?それ、どういうこと?」

「いや…気分屋なんで、迷ってばかりってことですっ

コロンが左腕でコチコチと震えて笑ってる。

Line

「ナギサさん糠平には、いつまで滞在するの?」

「いえ…あの明日くらいに…」

「普通の年だったら、水が増える今時期から冬までタウシュベツの橋は水の下にあるんだけど今年は雪も雨も少なくて。でも、ある意味良かったかもしれないよ」

「ある意味?」

「ここの温泉街、裏山にスキー場もあるから雪がないとね。いつもこうだと商売あがったりだからさぁ…」

Skialia

「義江さんってスキーできるんですか?私は全然したことないけど…」

「私もぜーんぜん学生の時はスキー場もすぐそこだし一緒に行く人がいたけど、上達しなかった。才能ないのよ。今なんか冬場は忙しいし…」

「今は暇なんですか?」

「もうすぐ紅葉シーズンが始まるからそれまでは、わりと…。だから休暇も今時期に集中するんだよね。」

ここへ来たときの山は、まだ緑色1色だったけど、確かに夏の色とは変わってきてた。
秋はもうそこまで来ているんだね。

Mt

「そういえば、さっき遅れそうだったから旅館に寄ったんだけど」

「えっ!」 寄ったの まさか…?

「そしたら、おじさんもおばさんも仕込みで外出って貼紙があってさぁ…お客さんいるのにねーっ」

「だ…大丈夫ですよ。私も朝から出かけるって言っといたし」

「あの旅館とは、ここへ来たときから家族ぐるみの付き合いでさ、ウチは母が早くに亡くなったから助かったんだよ。父は不器用で身の回りのことも苦手だったから。それで、そこのひとり息子がクラスメートでね。兄妹みたいだったなぁ…私もひとりっ子だから。 今は札幌で仕事してるけど…」

Speed

そのまま義江さんは、何か思い出したように静かになった。
陽気に飛び回っていた空気が車の中で何かを感じておとなしくなってくる。
次の言葉が浮かばなくて私も頭の中が真っ白になっていった。
横長で四角い景色が、ずっと終わらないテレビみたいに動き続けている。

Dscf0642 「あっもう着くよっ

長い眠りから覚めたみたいにハッとわれに返ると、義江さんは右側に見えてきた駐車場へ入っていく。回りに橋らしいものは見あたらない。木立の間から湖が少し覗いていた

「ここから少し歩くから」

「いよいよだしね」

左腕のコロンに答える代わりに右手でコロンをグッと押さえてやった。
木立の間を通る道を進むと、道は真っすぐでズーッと奥まで続いている。
このまま進むと緑の中に吸い込まれていくように見えた。

Dscf0661 「かなり遠いんですか?」

「いやもうここだよっ」

「えっ?」

回りを見渡すと、右に橋が見えた。
車がその上を通り過ぎていく音が聞こえる。あれは今、通ってきた橋じゃ?

「あれ?」

「ううん、これ!」

義江さんは笑って下を指差す。
下…?コンクリートで柵のある…

「えっ…こここの橋がそうなの?」

Rake4

「そう!この橋が『三の沢橋梁』。昨日の『糠平川橋梁』もそうだけど遊歩道になっていて今も渡れる橋が3つあるの。ここじゃ全体が見えないから降りてみよっ」

橋の向こう側、藪で覆われた斜面に階段があってそこから義江さんに付いて下へ降りていく。木立の間から覗いていた湖が目の前に広がる。
湖の縁は茶色の土がむき出しで大きな石がゴロゴロしていた。
遠くに黒っぽい生き物がたくさん湖の方を見ていた。

「あれ、なんだろ…小さいのが点々と」

Nagisarake

「あれ?あれは切り株、この湖は谷間を流れる川だったんだけど、発電用のダムができて湖になったの。その時、切り倒された木の切り株が水が減ると見えてくるんですよ」

切り株…なんだか湖に帰りたがってる生き物みたいにみえるね。

「ほら!今渡ってきた橋!」

「あーっ

No3

振り返るとお城のように大きな橋が目の前にドーンと立っていた。

「大きいですねーっ!だから『恐竜』って言うんですか?」

「恐竜?いや『橋梁(きょうりょう)』だよ。『橋』ってこと」

う…学のなさが出た…。風があったら飛んでいきたい

「このガッシリした大きさ、男性的だよねーっ」

「へーっこの橋、男の人なんですか?」

「いやいやガッシリしてるところが、そんな感じだねーって…」

ボォーッ…

 

Kuchiki 「あれ?今、何か聞こえませんでした?」

「えっなにも聞こえなかったけど?驚かさないでよ。クマかと思うじゃない風の音じゃない?」

「出るんですか?クマ…」

「出ないって保障はないけど…私、今まで会ったことは一度もないよ。ハハハ…はぁ…

あれはクマとも風とも違う音だった。
もっと深くて勢いのある唸り声みたいで遠くからこっちへ向かってくるみたいだったと思う。
耳をすませても、それ以上は聞こえなかった…
気のせいだったかな?

「でも、この橋が湖に沈むなんて信じられないですね。むこうの橋とそんなに高さも違わないみたいだし」

「あーっ違う違うこの橋じゃないの『幻の橋』は。そろそろ行ってみようか」

「はい」

もと来た道へ振り返ったとき、そよ風が何かを知らせに来た。覚えのある香り…
うーん…これは…なんだっけ…?

Rake

義江さんの車は、緑の間をウネウネと伸びる灰色の蛇の背をさかのぼっていく。
と、急に右のわき道へ入っていく。その先に赤い鉄で出来た門が見えた。

「ちょっと待ってて。ゲート開けてくるから」

義江さんは車から降りると門の方へ歩いていくと、ポケットから鍵らしいのを出してガチャガチャ始めている

Greenroad 「ナギサーン?ちと話してもよかにか?」

「うん。義江さんが戻ってくるまでだよ」

「丸干しの橋と言うは、この先やらか?」

“まぼろし”だよ“まるぼし”じゃなくて…」

「そこには何が渡るるでら?」

「いや、今は何も走っていないらしいよ。線路も無いし」

「してわ…先より石炭燃えよる臭いがすらな…」

「石炭

そっかさっきのは石炭の香りだ

「コロンもそう思った?」

「そさすな。たぶんならす…完全でなしが…」

「まぼろしかぁ…そこに何があるんだろ。あれ…?」

扉は開けられたようだけど義江さんは、道の先をジーッと見つめている。
なにかいるのかな?

Greeen

しばらく待っていたけど義江さんは、まるで人形みたいに動かない。

「なんだか…様子がおかしいよね…」

「クマでも出たらますか?」

心配だな…ちょっと行ってみよう…

「義江さん? 義江さん?どうしたの?」

おや?聞こえてない?

「義江さん

うわあぁっっ

手を握って呼びかけたら義江さんは電気ショックでも受けたみたいに跳ね上がった。
あまりの驚きように私の魂も体から転げだすかと思ったほど…

「すいませんごめんなさい私、驚かすつもりじゃ…」

「あっ…ゴメン!私、ボーっとしてたみたいだね…」

「何かあったんですか?クマでも出たのかなーって思いました…」

「大丈夫だよ!大丈夫!行きましょう」

車は、開かれた扉の間を抜けて緑の奥深く入っていった。

Dscf0637

「もしかして寒い?ナギサさんの手、すごーく冷たかったけどヒーター入れよっか?」

「え…?大丈夫です…私、平熱低いんで

そっか…冷たいのか…私の手…

さっき…義江さんの手に触れたとき
なんだか重くて物悲しいものを感じた。
あの悲しみはなんだろう…この明るい義江さんのどこに…?

                             (つづく)

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2009年10月31日 (土)

ボクだけのお城

点々と生えてるフキノトウがなかったら寒々とした初冬の風景。
それほどに荒廃してカラカラに乾いた家は3Dから2Dに変貌しかかっている。
赤錆と木目浮き立った古板の色どり
雑草の屍が最後の日のまま立ちつくして、次の世代を虚ろに見続けるだけ…
ここは、過酷ながら戦闘とは無縁な風景─

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アラサーとかアラフォーとかいうくくりにまとめられる世代
その少し前も後にずーっと続く世代も戦闘など知らない。
「競う」という意味での「戦い」は別として。。。

Dscf4658 しかして世の中
どんなものにもマニュアルがあって家電やソフトは言うに及ばず、生まれることも死ぬことにも探せば何かしらのマニュアルがある。
既製品じゃないのに既製のマニュアルに形を合わせてるみたいだ。
雑誌もマニュアルの一種ですね。
自分探し 自分づくり 自分試し 自我崩壊 自我侵略。。。
読んでいる雑誌で、そのひとなりが見えてくるから、やっぱりマニュアルなんじゃないかなぁ。それが悪いとは言わないけど。。。

「そういうお前は、どんなん読んでる?」

と聞かれたら

「週刊ダイヤモンド」と「Theいけのぼう」と「詩とメルヘン」と「ふぁんろーど」…

と ツッコミを期待して言ってみる。

「ふーん…なんだ…」

おいおいっ!

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Dscf4659正直雑誌は読まなくなった。今は「Soup」くらい。以前は5誌くらい買ってたことがある。
「Fine」「Doll」「アニメージュ」を重ねてレジへ行ってた頃が懐かしいです。(それにしてもメチャクチャなチョイスだ。。。)
ちなみにアニメージュを読んでいたのは、アニメーションに傾倒したわけでなく、回りがアニメーション啓蒙者が多かったからです。(マンガ描いてたけど)
コミュニケーション手段としての知識を得ようとしてね。
いまや社会を支える世代の中心になっていると人たちは、すでにアニメやゲームの洗礼を留まることなく受けて育ってきました。昔の人の言い方なら「戦争を知らない子どもたち」

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Dscf4670 潰れかけた家の隙間からたくさんの雑誌が覗いていた。
重ねて紐で縛ってあるのやカラーボックスに月順にきれいに並べてあるもの、その全てがアニメ雑誌。
プラモデルの箱やアニメソングのシングルレコードを裸で壁に飾ってあったり。。。
今ほどアニメーションの地位が確立されてたわけでもなく、まだ「オタク」のレッテルを貼られていた頃。 それはともかく人の趣味です。自分の城です。

会わなくなって久しい人が「俺の武器はエアロスミスだ!」と豪語してたことを思い出す。
CDを手裏剣みたいに投げたりするわけじゃなく、エアロスミスに関することなら誰にも負けないという自負だったのでしょう。エアロスミス以外のロックを聴いたら魂が腐るくらい言ってた。
気のせいか見た目もスティーヴン・タイラーみたいだった。
そんな彼にも自分の城とも言える部屋があって、占い師の店みたいだなぁ。。。という印象で、ワンルームの部屋の真ん中にいると玄関がどっちかわからないほどドクロとか色々ぶら下がってました。

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主が街を去っていくとき、部屋もいっしょについていくみたいにキレイに片付いた。

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部屋がそこに残されたとき
それは、主に大きな変化があったということ。
ロマンとリアルを共存させるのは、やはり難しいのだろうか?
そうは思いたくないけれど、残されるものがいるのは確かなことです。

エアロスミスで武装した男が街を去る日に現物大の大きなドクロの灰皿をくれた。
信長ぢゃないってっっ どうすれっちゅーの

とりあえず物置の奥深くに埋葬(?)
まさに思い出の亡骸

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2009年10月19日 (月)

アポロ

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「あーっビックリした…人が来るとは思わなかったよーっ

「そうですなんですか?人間はいろんなとこへ来るあるますね…」

「そう…“あるます”だよ…

なんか、恋の話してたみたいだな

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私はナギサ。幽霊の女の子。風に乗ってあちこち旅をしている。
幽霊だけど人が怖い。怖がられたり、信じられないものを見たというような目で見られると泣きたくなってくるよ…。だから半人前の幽霊。もう「人」じゃないんだけど…
いっしょに旅をしている“
コロン”は、海辺の町で出会った石のお地蔵さんに入っていた魂だ。いつもは腕時計の姿で私の左手に巻きついている。

人を避ける私と違って「人」を見てるのが大好きな“コロン”は人に見られることがないというのもおかしな話だね。見られたくない私は、やたら人に見られてしまう。そういうことが上手なのかコロンは、人間好きでやっぱり性格も明るい。言葉はまだメチャメチャだけど教えているのが私だからなぁ…
そんなひき目な気持ちがあるから、たまに塵や霞を集めて人に化けていても人前ではオドオドしてしまうんだ。

Dscf0265_2 夕べ、 “コロン”と一晩休むところを探してここを見つけた。
幽霊は夜出てくるものと自分でも思っていたけれど、いざ自分がそうなってみると見えない闇夜を飛び回るマネは、とてもできない。だから人の来ないような…例えばこういうところを見つけて朝まで過ごしてる。
やっぱり「元は人」だから屋根のあるところで休みたい。そのほうが安全だと思うから。

Dscf0290 その日、見つけたところは、街からそれほど離れていない夕暮れの林の中に埋もれるようにあった。大きなタンクのようなのがたくさん並んでいる。
木や草で覆われて、ところどころが壊れかけていたから「もしや?」と近づくと思ったとおり人が住んでいない。ところが、ここで夜を明かすことにしたものの、窓の開かない暗い部屋の中にいたものだから朝がわからなくて、人の声にあわてて隠れていた。

「ナギサン“ヒトぎらい”だなに、人が来るとこばかりに居ちゃりますな」

「そうだよね。そういうつもりじゃないんだけど…。こういうところに来る人ってそこの写真撮ってるだけみたいだよ。冷蔵庫とかタイヤとか下ろしに来る人も見たけどね。」

「して…ここは、どな屋敷ですかのな?」

「ここ…?んーと…」

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確かに不思議なところ…。
夕べ大きなタンクに見えたのは翼のある同じ形のロケットかミサイルみたいなの。
ズラーって並んで…何かの基地のようだ。
そう、宇宙基地とかいうのかと思った。
中へ入ると先端の方に大きなベッドと発射口の方は、お風呂があって、いくらなんでもこれが宇宙に向かって飛んでいくようには見えない。
昨日、街であった人と入ったところもベッドとお風呂場しかないような暗い部屋だった。

「ラブホテルて言うとりましすた。さっきの人ら…」

そっか…休むとことか言ってたな。昨日の人も。

「そうそう!休むとこ!疲れたら昼寝したりとかお風呂に入ったりとか…」

Dscf0268「ラブ言うたら何でらすか?」

「ラブ…LOVE…?違うよね…?」

休むのとラブの関係というか意味がわからない。

「たぶん、ここの名前だと思うよ」

「家の名札が前に付けあったやら…花の名前でったよ」

コロンったら姿が見えないと思ったら、知らない間にあちこち行ってたんだ。

あっ…そうそうズーッと前にTVの宇宙が舞台ので“スカイラブ”とかいうのを聞いたことがあったよ。宇宙船のことじゃなかったかな」

「ウチウセン─?」

「きーっとそうだよ!アメリカの宇宙船が月に行ったことがあったんだってさ。アポロ…11号っていったっけかなぁ。私が生まれたのよりもズーッと昔のことらしいけど」

「ヒトがあの月まで行きやられるでますか?へーっナギサン行ってみましょな」

「えーっ無理だよォ

「なして?」

「宇宙は空気が無いんだって。だから風も吹いてないよ。だから私でもあそこまではとても行けないよ。誰も住んでないし…」

と言うか、あんな遠くまでは、行くのも帰るのもそう簡単にはできないだろう。
行けたとしても、このあたりでだって風に流されて行きたい方へ行けないのに日本にすら帰れないと思う。

「そすか。アポウロジウチゴは月まで行ったてに…

「うんうん残念だけど…

よっしゃーっなんとか説得できたぞっっ
ちょっと宇宙まではカンベンだよ

「ここは、なでにウチウセンであいます?こっちは家の形なさに」

Dscf0305「そういえばそうだね。こっちだけ普通の部屋だ」

どの部屋も入口は、大きなシャッターが付いてる。中は物がいっぱいで物置になってるようだ。上の方に外国の家みたいな窓があってガラスが割れている。上は何があるんだろう?この高さなら風が無くても入れそうだ。

「あの窓から入ってみよう」

「はいなす」

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「うわーっ壁に毛が生えてるみたい…」

Dscf2690_2 ふわふわした毛が壁一面に張ってあった。

「誰もいませんねや…」

「それはそうだよ。空家だから」

部屋の中はとても狭い。昨日行ったところよりずーと…
ベッドと風呂場は確かにあるけど、ホントに休むだけのところなんだな。

─いらっしゃいませ─

ひっ だ…誰!コロン?」

「違うでした。わたしでは、にゃあです」

「聞こえたよね?どこからか…」

─いらっしゃいませ おふたり様ごあんないします どうぞ ごゆっくり─

…部屋だ。そうか…部屋が話しかけてきてたんだ。

Dscf2696 「夕べは、向こう側に泊まったので…」

─ご延長ですか?─

「いえ!園長じゃないです。先生でもないし…普通の…普通の?とにかく幽霊です」

─幽霊さまですか。存じ上げなく失礼いたしました… ごゆっくりお楽しみくださいませ─

「ナギサン!なにすかここ?つまんないでしわ」

「シーッ!おかしなこと言ったら叱られるよ!お風呂に入って休むとこだって!」

「休むたて、石みたいドッチャリ座ればら疲れねしょ」

「いや!人は家から出かけてる時は、こういうとこで休まないといけないの!」

Dscf2676 「ナギサンもこな狭いとこで休むですか?」

「うん!あるよ。昨日も…」

「きのお?」

「い…いや違うもっと小さい頃さ。生きてたときの」

─お客様方は、当ホテルの趣旨をご存知ではないようですが─

「へっ?ナギサン寿司やて」

「それ違うと思う…。正直、ここは初めてなのでよくわからないです」

─さようでございますか。さすれば本来プライベートなものですが、差し障りの無い程度で現在までのご利用状況をかいつまんでご説明申し上げます。右手の鏡をご覧下さい─

Dscf2680

ベッド脇の鏡が眩く輝きだした。
この部屋の様子を写しているみたいだ。

「ナギサン!テレビだてや。なんでしかね。おやあ?誰か映って来りましよ…」

Dscf2673

「ここが、地元でもちょっと知れたスポットでさ。営業当時から出るって噂があったそうだよ。その影響で閉鎖されたんだとか…」

「ホントっすか?それ超ヤバクないです?」

Dscf2700 「真っ最中に気配に気がついて窓の方を見ると、女がこっちを恨めしそうに見てたとかいう話さ。窓の外になんか立てない高さなのに」

「へぇっ…怖いッすね。自分、そんなん見たら速攻萎えます。で…どの窓ですか?こっち側にはないですね」

「たしかにそれっぽい窓ないなぁ…こっちの棟じゃないか?」

ギャアーッ…

うわっ!…何!悲鳴じゃないすか?今の!」

「うぉーっビビったぁ…たぶんキツネだろ?いくらなんでも昼間っから出ないって…うわァーッ

P1020036jpg

「ギャー出たァーッ

「逃げろ

「ナギサン!ナギサン!置いてかねでっ!」

うわぁーっうわぁーっそんなぁーっ

昨日…あのとき時間がこなくて… 爪が緑にならなかったら…
あのまま、あそこにいたら…
うわぁーっどうしよう!どうしよう!なんてことしてたんだろ!信じらんない!

「ナギサン!どうしたでしたか?」

「なんでもないったらなんでもないよおっ
うわーっ うわーっ

Dscf7768

「アキさん?あれなんだろ。UFO

「えーっ どれ?人工衛星じゃないかなぁ…」

「スッゴイ勢いで飛んでったよ…あれかな?アポロとか言うの…」

「それを言うならスペースシャトルじゃないですか?」

「そっかァ!あっちから来たから、さっきのラブホのが飛んでいったのかな」

「ま…まっさかぁ

YOUTUBE/ポルノグラフィティ 「アポロ」

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