« 2010年9月 | トップページ | 2010年11月 »

2010年10月

2010年10月 3日 (日)

大きな石を見てきた

Dscf8091

大きな石を見てきた。

石といっても長さ6メートル、重さ200tもあるらしい。石というよりも岩だ。
この岩は、もう少し奥地の岩盤から切り取られてここまで運ばれたという。

Dscf7996

北海道沙流川郡日高町
国道274号線と237号線が交差する内陸の市街地。
山間の街というよりも町の際まで山が攻めこんでいるような景観。
でも、ここに暮らす人々にとって、この神々しい山は、母なる故郷の山に他ならないだろう。

Dscf8107 この地に北海道開拓と農業者育成に貢献した型破りな男が通っていたそうだ。
それが北海道農業専門学校(八紘学園)の創立者で初代理事長である栗林元二郎(1896-1977)氏。

元二郎氏は秋田県稲川町の農家の次男として生まれる。しかし時代は長男が家督を継ぐため、次男以下は、土地も与えられず農業を志すのは、とても難しかった。
そこで元二郎氏は、同じ身の上の次男・三男を集めて北海道開拓に渡ってきた。
北海道庁との契約で5年で一定面積の開墾が完了すれば自分の土地が手に入るという。
そうしてやってきたのが現在の十勝の芽室町上美生(かみびせい)。しかし、広大な原生林を目の当たりにした仲間はあまりの広さに怖気づいてしまう。

「広すぎる。きっと無理だ…」

その様子を感じ取った元二郎は、徹底的な共同作業と自らも1日20時間労働で開墾に満身。馬耕技術も3日で身に付ける頑張り様。
みるみる広がる真っ黒な開墾地…その景色に皆、自信を深めたそうです。

そうして元二郎氏は、5年の契約を3年で完了。これが北海道庁に認められ元二郎氏は功労賞を受けられました。その後、元二郎氏自信は農業を営まず北海道の移民招致の仕事をするようになりました。
その頃から農業を志せど土地を持てず萎んでいくだけの二男・三男。また、農業の実体験を持てども近代化の波に乗ることのできない日本農業を憂い、農業学園の夢を抱き始めました。それが現在の「北海道農業専門学校 八紘学園」の礎となりました。

Dscf8102

Dscf8106 そんな元二郎氏とこの巨石が、どうも結びつかない。
功績ばかりが取り上げられるため、あまり知る機会がありませんが、氏は鉱石収集を趣味としており、札幌市豊平区月寒東の八紘学園敷地内にある旧栗林邸にはその収集で集められた大きな銘石で築かれた石庭があります。(年に1度花菖蒲園公開時に一般開放)
その氏が1965年頃から日高山脈の銘石を掘り出すために日高町千栄地区に通っていました。
国道274号線を帯広方面に向かい、日高市街を越えた道沿いに巨大な庭石やそれらの石の販売店が目に付く。それらの多くが「日高石」と呼ばれているものです。この名は日高で産出する“銘石”としての名称で、やや青みがかったこの岩石は、学術的には石英片岩といい、岩石が地中深くの高圧下の変成作用を受けてできた変成岩です。
一定方向に割れやすい片理面や、これが複雑にうねる微褶曲構造が見られる。もとの岩石は一様なものではなく、白っぽくて堆積構造の見える部分は泥岩に、青っぽい部分は砂岩に由来すると思われます。また、緑色がかった玄武岩片も含まれています。

Dscf8100 元二郎氏は、千呂露(チロロ)川支流ペンケユクトラシナイ沢から200tにおよぶ巨石をとり、沢口まで運びました。ところが下流にかかる橋の重量制限が問題になり、この場所から運び出す計画は頓挫。それ以後は運ぶことはせず、日高町に寄贈されました。
これが現在も残る「チロロの巨石」。
これが、切り出されたものとしては国内最大の結晶片岩といわれるそうです。

山間の草原。その景色の中で一見不似合いな巨石。
栗林元二郎という人の大きさと、大昔から日高山脈に住むといわれる竜神の伝説が相まって不思議で雄大な景観を作り出しています。
札幌の石庭に並ぶことはできなかったけれど、これはこれで完成した眺めのような気がしてきた…。

Dscf8094

石は、想像を絶するほど大きい。
その石も周囲の山からすれば、とても“ちっぽけ”であるかもしれない。
その“ちっぽけ”な石に想像を絶する自分は、もっともっと“ちっぽけ”です。
だから自分自身もその力も“ちっぽけ”と信じるだろう。
でも、自分を“ちっぽけ”とは微塵も考えなかった人がいて
偉大なる山の片鱗を引き剥がして、ここに置きました。

“ちっぽけ”でもできることがあるのです。
“ちっぽけ”だからできることがあったのです。

自分のすることが“ちっぽけ”なんじゃなく
“ちっぽけ”と思う自分が、それを“ちっぽけ”なことにしてしまう

Dscf8115

石は、その想いを記録した記憶メディアとして
ここでログインする人を待ち続けている。

| | コメント (4)

« 2010年9月 | トップページ | 2010年11月 »