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2010年7月

2010年7月21日 (水)

ロビンソン ①

Reafsky_2

どこまでも高い青空の中、風の背に乗って飛んでいる。
私はナギサ。半人前の幽霊─
とは言っても何年も幽霊してるのになぁ…

季節は秋。一面緑色だった景色は、どこまで行っても赤や黄色に染め替えられていた。
風に乗って赤い木立の道を通り抜けるとハラハラと枯葉が舞い上がっていく
もうすぐ冬なんだね。これからどんどん寒くなっていくんだ…

Roop

昔─冬に学校へ通う道の途中に立っていたシラカバの木が骨みたいに見えて、なんだか怖かった。
毎日、目をつぶってそこを走り抜けていたけれど、季節の魔法は何もなかった枝に少しづつ葉を着せる…。
シラカバは白骨じゃなくて、ちゃんと生きているんだから当たり前なんだろうけど、それがすごく不思議だったよ。

「ナギサーン!赤ぃやら黄ぃやらのも見飽きたなんでしなぁ…」

Handskoron_2 

左腕に巻きついたコロン(腕時計の姿をしている)がそう言った。
海の近くで会ったコロンは、近くの山に置かれたお地蔵さんの姿をした石の魂で、今は私と旅をしている。

「そうだよぉ!秋なんだから。冬を迎える準備の前に色を変えるんだよ」

「でもしな、変わらんのもあるじゃしに」

相変わらずコロンの話し方は、おじいさんみたい。
私も教えてはいるけど、元いた山に来ていた人たちの話から覚えた言葉が染み付いているみたいで直らない。
コロンはあまり気にしないし、私もコロンがなにを言おうとしているか大体理解できるようになってるい。

「えっ?…まあ、そういう木もあるけどさ。大きい葉っぱは、ほとんどそうだよ」

「そや!ずっといてた山で、あての上にもボタンボタン落としよりしたならぁ。何しよる思いでんが」

「嫌だった?」

「うんにゃ!ボッけし乗っかる雪よりゃ可愛もんだでし」

「そうか…もうすぐ雪も降ってくるんだね…」

Koufuku

冬は忘れることなくやってきた。
空から来たものたちは見渡す限りの大地にまんべんなく振り積もっていった。
凍てつく空気も緊張しているみたいで、寒そうな日が続く。
もちろん今の私にはその寒さはわからない。

冬は光は、一際まぶしい。
夏よりも真っ青な空は、まるで絵のようで風のほとんど吹かない日もある。
そんな時は、夜に泊めてもらった家にズーッと足止め。
こういうときに人が来て見られたら、ここが幽霊屋敷と誤解されるかもしれない。
だから、ツララから落ちる雫の音にもオドオドしてしまう…

Mayohiga1

Mayohiga2 「ねぇコロン? コロンも寂しくなることってある?」

「ん~っ?そげなん考えるばことは、無しですなぁ」

「仲間…っていうか他の石とは話したことないの?」

「わてらば石ころですからな。そゆな言葉、したことぁないです」

「他の石ころも何か思ったりするかな?」

「思うなことあるだらけんど、知りえませんで。割れて分かれたんでだから話すことも無しでる。」

Ohazikibotun 「人もそうだよ。たぶん何か大きなものからどんどん別れていって小さな自分になるんだと思う。でも、誰かと一緒にいたくなるんだよ」

「それは、何でらすか?」

「うーん…何でって…そういう気持ちになるんだよね」

「それにしたってらナギサン、人嫌いでれしょうに」

う…痛いとこ突かれた…。

Mayohigaroom

「それは… それは私が、もう人じゃないから…だよ」

「…あても今ば石ころでねぃですナギサンと一緒でぁす

「…コロン、ありがと。やさしいんだね」

「いやあ…ナギサンとがトモダチでやすしな」

コロンは照れるみたいに、そう言った…

Sairo

やがて春の風が吹き始めた。空の高いところでは、季節の戦いが広まって運動不足な冬はヒューヒュー言いながら汗をかいている。
だから、かえって春の思う壺だった。
季節の変わり目は、いつも新しい方に部があるんだよね。
真っ白な世界に満足していた冬は、自分が思う以上に力を失っていたことに気づき、勇ましい春の猛攻に領地を追われて、どんどん遠くの山へと逃げだしていく。

春の訪れ。新しい命の季節…
その眺めを目の当たりにしながら心のどこかに穴が開いてどんどん空気が漏れていくような気持ちがするのは、その芽吹きに私が無関係だからなのかもしれない。

Skyhigh

この命萌える世界にいる私はなに?
どこへ行こうとしているのだろう。

「ナギサン!なに考げぇとりますんかな?」

「うん?いや…別に…」

石ころのコロンは、機械みたいに表情のない声で話しかけてくるけど、私のことを気にしているみたいなところがあった。
人を観察するのが好きだけど、私のこともちゃんと見てるんだろう。
人から逃げ続けている私とは大違いだよね。

Fukinotou 「ねぇコロン?生まれ変われたら人間になりたい?」

「うーむ…どうでかんなぁ…。たぶんにそれは、したくならん思いますに…」

「えっ?どして…?人が好きなんでしょ?」

「人らは、己らの見える場所が小さなやうに思みいます」

「…?」

「自分ん中から外を覗いてる風なんだらな。いつもん何か被ってるさのようです。どこか“ぎこちない”しておるようだすな。あてが思うに人ぁ自分になられい生き物でおるししょうな」

「うん。自分の思うこと、したいことだけじゃ社会っていうのは上手くいかないからね。人としての顔っていうのがあるんだと思うよ」

「そういうところさが面白なんやねす。だば!人にならんで、あてはコロコロしながら人を見ちょるんが好きでぃす」

「ふーん…」

白い大地が黒っぽくなり、また大地が緑色になり始めた頃、山の上に追いやられて意固地になった冬のところへ行った。
そこにコロンと同じようなお地蔵様がポツンと立っているところへ来た。
そっと触れてみると中に何かがいるのはわかるけど、応えてはこない。
それが神様とか仏様なんだと思っていたけれど、コロンと出会ってからそうではないと知ったんだけどね…。

Wish

「ねぇコロン?このお地蔵様とは話せる?」

「うんにゃ!石ころ同士は、よう話ませんねや。人のやうに話たり、くっ付いたりはしねいです。同じ塊んから一度離れでば、ひとつに戻ることもなしでれす…」

コロンが人の好きなところは、人が心を交し合えるということなんだと私は思った。
心を交わす人(コロンは別にして)などいない私もやっぱり“石ころ”と同じなのかもしれない。

…いや、そうじゃない。そうじゃないんだよ!忘れるところだった…。
“カズくん”のことを忘れるところだった。
ひきこもりの幽霊な私を陽の下へもう一度出て行くきっかけを作ってくれたカズくんのこと。

        「いつか、会いに来るよ─」

Touge

風に乗って旅することを覚えた私には、カズくんに会いにいくのは、とても簡単なのかもしれない。海で遠くを見ていつも思うのは、向こう側にいるカズくんのことだ。
自転車乗りが上手だったね…あの日が懐かしい。
私がこうして何も食べない、眠ることも無い幽霊として「この世」にい続けていられるのは、きっとその想いがあるからなんだと思う。
だから私は待ち続けている。

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いつ会いにきてくれるだろう。ホントに会いにくれるのだろうか?
それよりも私は、前と同じように会うことができるんだろうか?

その想いが叶ったとき、私はどうなるのだろう。
その日を素直に受け入れることができるのか…

こころのどこかで その日が来なければいいと…

本音の私は、そんなことを思っているかもしれない 

(つづく)

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2010年7月 4日 (日)

トーマの心象

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無計画に廃墟探しに行くことが多い。
目的の場所を決めて出てきても、その途中で見つけたところのほうが素晴らしいことの方が多いから。
出先で目的地の撮影がことのほか早く終わったり、既に解体されていたり、諸般の事情でそこまで行きつくことができなかったり…等いろんなことがあって予定が狂う。狂うものだと思う。それも楽しんでいる。
特に廃墟は、よほど名のある産業遺産とか歴史的建造物が崩落の危険とかで解体やむなしで事前告知の情報が入らない限り、行ってみると既に更地になっていたなんてことも珍しくない。

予定が狂うからクルクル回る。北海道内広いから、移動時間が長くてお腹もクウクウ鳴く。
それで目もクルクルしてくるので、美味しいものでもとランチタイムするわけです。
撮ってきた画像をチェックしながら「さて、これからどうしよう…」と地図を広げてみる。

「当麻(とうま)鍾乳洞─!」

鍾乳洞かあ…そういえば何度か行こうと思ったことあったけど、まだ行ってなかったなぁ…
廃トンネルとかは良く行ったけど鍾乳洞には入ったことがない。

「よーし!ここ寄ってこっ!」

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Dscf7423 旭川市の隣町、当麻町の郊外。畑作風景が続くばかりで、さほど山奥でもない。やがて道は次第に両側の山がゆっくりとこちらへ近づき、高みも増してきた。
見上げる空がずいぶん小さくなってきた頃、谷間にポッカリと開けた箱庭のような場所が現れた。
谷間に巨大な黒い舌のごとき駐車場と数棟の建物が見えた。向こう側に庭園風の場所があり、その中に恐竜のモニュメントがある。 なんで…?

Dscf7433 GW中だというのに注射中の車は少なく、人もさほど多くはない。
たぶん旭山動物園の方に流れているのだろうね。聞いた話じゃ周辺の道も渋滞してるそうだ。混雑とか行列とか苦手だからいいや。

ともかく鍾乳洞へ入ってみることに…あれ?入場料じゃなくて「入洞料?」なるほどね…。
脇に龍のタイル画をあしらった洞窟入口はトンネル入口のようにも見える。
それはさておき、外界と違うひんやりした洞窟内は金属製の細い通路が続き、誰かとすれ違うのは難しそうな程狭い。外から差し込む陽の光が及ばないあたりからツララ状の鍾乳石が見えてきた。

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当麻鐘乳洞は、昭和32年に石灰岩の採掘中に発見される。全長135m、内部の高さは7~8m程。1億5千万年前のジュラ紀から、気の遠くなるような時間をかけて地下水の溶蝕作用がつくりあげた石灰洞窟。
学術的にも貴重な鍾乳洞としてされている。駐車場にいた恐竜はこの鍾乳洞の生まれた時代を意図したもので、ここで恐竜の化石が見つかったわけではないようです。

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鍾乳石が3㎝成長するのに約200年の歳月を要するといわれている。この鍾乳洞は、特に不純物が少ないので結晶度がきわめて良く透明感が高い。
その後(昭和36年)この鍾乳洞は北海道の天然記念物の指定を受け、北海道指定天然記念物で唯一一般公開されているものだという。

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当麻町には竜神伝説がある。恐竜の時代から鍾乳洞の成長が始まったとはいえ、竜神伝説はいささか無理があるように思えた。
しかし、恐竜から発した伝説ではないようです。当麻町には、こんな昔語りがある。

Dscf7573 むかし この土地がトウ・オマと呼ばれていた頃。
空を覆う雲の中から夫婦の龍が現れた。
土地の先人達は大空を飛んだり、大地をかけ回る龍を見て、その龍を自分たちの 守り神とし、この地の発展を願ったという。
そして龍神が休み所、それが当麻の鍾乳洞(蝦夷蟠龍洞)と伝えられている。

洞窟の内部構造も2頭の龍が並んでいるような形をしているのだそうだ。
でも、どうやって洞窟の形を知るのだろうと思うけど、それは測量技術のなせる技なんでしょうね。
この伝説があることから町のあちこちには龍を模ったモニュメントを見かける。

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通路は奥へ進むごとに天井が低くなったり、時折広い通路や階段を延々と下りていくところが続いていく。
何分に中は薄暗いので三脚を据えて夜間モードで撮影。
時折、他の入場者もいるので狭い通路を行ったりきたりしながら撮り進んでいた。

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今、自分は地表からどれくらい降りているんだろう?

ライトアップされて赤や緑に美しく輝く鍾乳石の幻想的な情景とは裏腹に少し不安にもなってきた。
前にも後ろにも人の姿は見えない。
意外と自分は狭いところが苦手なんだなぁ…。
それにしても鍾乳洞ってすごく内臓感覚のあるところです。

人の手によるトンネルや坑道は、その専門技術によって数年・数十年で作られる。
鍾乳洞は雫など、水の力で気の遠くなるような年月を経てここまで完成した。
そして今も成長し続ける。

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この時の経過は人の時間の感覚からすると、とても待ち続けられるものではないけれど、水一滴の力が意図したかのようにかくも美しい造形を作り上げた。その時を超越する職人にとって人の時間など、きっとせせこましく他愛ないことに過ぎない。
その人を超越した時間に人は「神」を見るのだろう。

そんな、トーマ(当麻)で感じてきた心象風景でした。

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『当麻鍾乳洞』

場   所:北海道上川郡当麻町開明4区
       JR石北本線 「当麻」駅から7㎞。
       車の場合は、旭川市内から国道39号線─道道1134号線経由で45分。
       高速利用の場合、道央自動車道車 「旭川北IC」から27㎞。
       札幌から、2時間30分。

営業時間:午前9時~午後5時

営業期間:4月29日~11月3日。

料   金:高校生以上500円 小中学生300円 幼児無料

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夏場は涼しくて快適な内部だけど、秋口とかは寒いかもよ。
羽織るものを用意しておいた方がいいかも。
けっこう階段も多いから、それなりの足元で。

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