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2010年6月21日 (月)

動かざる湯場

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周囲には植林で覆われた緑の山が幾重にも連なるこの地にそこはあった。

起伏にとんだ道を走る。緑と道、そして空。
それ以外は何もないながら死角の先に何かあるかと期待すれども
風景は、さっきと同じところを走っている感覚に囚われてくる。

やがて緩やかながら大きなカーブに差し掛かったところで、その内側に小高い奇妙な丘をが見えた。
回りの山より変わっているとはいえ、目立つわけではない。でもその一角が無性に目立つのは、そこが瓦礫の山と化しているから。

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Dscf7332_2 『産廃処理場かな…?』

それにしては、趣がちがうように見える。
散らばるコンクリート片。
陽に晒され、のたくる雨上がりの蚯蚓(ミミズ)みたいな鉄筋。
こんな山をいくつも越えた場所には不似合いな不法投棄物。

そこが単なる産廃置き場ではないことがわかったのは、まだ器の形をかろうじて残していたからだ。
でもそこは、役目を終えて解体されたというよりも爆撃に晒された異国の建物のごとき有様…

この瓦礫の山は、ほんの四半世紀前までは、豊かな自然に囲まれた温泉だったという。
昭和52年開業以前より湯治場としてここにあり、小さな小屋を持つ浴場であったが、創業者の悲願により浴場として整備されたとされる。

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Dscf7365 この温泉の側の山には不動明王が祀られていたのだそうです。
元より、こういった湯場や豊かな湧水のあるところには不動明王信仰があったそうです。
不動明王と滝にまつわる伝説は日本各地にあり、その滝と不動明王を結びつけたのは、修験道によるものとされている。
修験道とは、山岳信仰が背景となった宗教で、そこに真言宗天台宗が伝わって修験道は密教と深く結びつくようになりました。

密教の考え方おいて、全ての仏は大日如来の化身であり、中でも不動明王は大日如来の「教令輪身」として、仏法に従わない者まで力ずくで救うという役割を与えられていたそうです。
それだけで、あの恐ろしい形相ではありませんが、不動明王の利益には、除災招福、戦勝、悪魔退散、他。その中には行者守護というのもあり、不動様の印象は、見た目どおり厳しい存在で「静」というより「動」、「涼」というより「焼」な感じがします。
修験道には、心身を清める修行場としても滝が使われる。
不動明王の逸話にも滝で身を清めるという話もあり、修験道の話と相まって、「滝」と「不動明王」の関係が地方へと伝わり、地元の水神信仰との接点で不動信仰が絡み合って水場、湯場に「不動さん」が祀られるようになったと推測される。

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Dscf7357_3 ここもそういった場と同様に不動明王が祀られて霊験新たかな湯に人々が集まるようになっえいたのでしょう。
しかし、開業からわずか8年後の昭和60年、創立者が逝去。
諸般の事情で湯場は引き継がれること無く閉められることとなりました。
街から遠い場所だったため、集客に伸び悩んだ原因か、この時代の背景として人々が中流意識を持てるようになったころで、のんびりしながらも決して背伸びのなかった近場の温泉旅は、「より早く・より遠くへ」という時代を向かえ誰もが海外へ飛び立つようになり、そういう時の変化が、こういった湯場を人知れず閉めさせることになったのかもしれない。

それにしても解体したというよりも爆撃に晒されたかのように惨たらしい残骸の山。
施設としての不動産価値を無くすことで税負担を免れることができるという話を聞いたことがあるけれど、この状況で放置された真意は計ることができない。

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営業当時、ここでは「ラドン」が取り入れられていたのだそうです。
ラドンは自然界に存在する物質で、もっとも強力なイオン化作用〈物質にイオンを与える作用〉があり、温浴中に人体の呼吸により血液中、また皮膚を通して体内に吸収されると、その作用が血液・組織内に働いて、血液内の老廃物質、中性脂肪、コレステロール、過剰な糖分等の生理的代謝作用が促進されるため、血液が浄化
される。同時に組織内に停滞している凝りや痛みの原因とる老廃物の化学反応が促進され、消退してゆく。
また、人体神経組織に対して特殊な鎮静作用を有すという。
入浴後の臨床検査によると、このイオン化作用は、神経系にも効果があるのだそうです。

その効用として

Dscf7378・自律神経失調症
・更年期障害
・めまいや耳なりを伴うメニエル氏病
・冷え症
・神経系頻尿症
・腹部腸管癒着症
・気管支性喘息
・頭部外傷性神経症
・精神身体疲労
・多発性神経繊維膣

などがあげられます。

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Dscf7412 しかし、この霊験新たかな湯は創始者の代をもって閉められた。
そして瓦礫の山となった宿は、栄華の日を語るでもなく、孤独に万感の空の下、冷え切って痛んだ体を陽に当てて癒すのだった。

乾ききった湯場。「不動さん」は既にここにいないのだそうです。
人からも豪腕な御仏からも見放されたような地には、ここが華やいでいた春に彩りの片寄った山にわずかながらも色を添えた花が今も咲き誇っている。

そう それは、あたかも手向けの花のように。。。

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コメント

 不動尊が祀られていたのは横の山で十数年前ははっきりと御堂らしき建物を見ることができました。今回は斜面に芝桜があり、その上に白い建物らしき物がわずかに見えました。時間があれば登ってみたかったが、すでにベアタイムでしたし・・・
 私の母親は家族で唯一ここにきました。遠軽の伯母の話では婦人の団体が運営していたとの話でした。代表は教祖様?

投稿: K・T | 2010年6月22日 (火) 00時46分

catK・T様>思いがけないところへ連れてってくれてありがとう。
途中で行方不明になったのでクマにさらわれたかと思いました。wobbly

投稿: ねこん | 2010年6月22日 (火) 12時24分

場所は分かりませんが、冒険者ですね。
面白く、読ませて頂きました。
したっけ。

投稿: 都月満夫 | 2010年6月24日 (木) 16時37分

都月満夫様
昔は名のある温泉だったそうです。
湯に恵まれたこの国は幸せです。

投稿: ねこん | 2010年6月30日 (水) 00時52分

次の冒険はいつですか?
待ち遠しい。
待ち合わせは現地集合。それでも遅れてくるヤツはいつも決まっている。
したっけ。

投稿: 都月満夫 | 2010年6月30日 (水) 13時55分

都月満夫様
ういえば、待ち合わせに遅れる人は決まっていますね。
体内時計の動きが違うんだろうけど。。。
せわしないのもなんですが、ゆっくり気ままに動きたいこともありますよ。

投稿: ねこん | 2010年7月 8日 (木) 17時43分

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