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2010年5月12日 (水)

Anniversary of Angel ⑤

Nightwood

─ 僕の事 思うとき目を閉じて汽車を走らせて
                 聞こえない汽笛を聞くから ─

─ 何度、読み返したかも覚えていないほど前の手紙をまた読み返している。
札幌で就職した翔平からの手紙…
消印の日付からもう5年。翔平が糠平を出てからは、7年は経っている。
聞こえない汽笛かぁ…ずいぶんらしくないこと書くなぁって思ってた。
ベッドの中で汽車のことを考えてみたことがあったけど、ホントに届いたかどうかなんてわからない…

Fb196_2 「それにしても…」

帰りにナギサともう一度会っておこうと思い●●荘へ訪ねたけど彼女は宿泊していないという。勘違いかと他所も、それとなく聞いてみたけど…
しばらく温泉街を歩いたり、湖畔のキャンプ場を見に行ったりしたけどあの子の行方は分からなかった。
携帯に手を伸ばしかけて止めた。
そういえば携帯も持っていないって言ってたしなぁ…

もしや…?という気持ちが頭をよぎる。でも…まさかねぇ。まさか…
あ…もうこんな時間か…そろそろ寝ないと。

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Nightspa

「ナギサン?どなんしてレールー出させますのか?あんの娘っこに」

「どうって…そこまでは考えてなかったんだけど…義江さんの“心の線路”を引き出せたら想いを届けてあげられるって思ってさ…」

「そなこと、できれまするかナギサン?」

う…ちょっと単純に考えてたかな…。思わず萩岡さんに頼んじゃったしなぁ…

「うーん…それは、なんとも言えないんだけど…」

「しかしだな、あんの娘ごさん相手んとこは、どなんじゃろ?人は忘れんが得意じゃいし、せっかくな届け物さ“いらん”言うしまりやるかもなん」

うん…相手の人が義江さんのことをすっかり忘れているってことも有り得るんだ。
でも、向こうだって義江さんに会いそびれているってのもあるんじゃないかなぁ…

「おせっかいかな?私…」

「あてらには、よう分かりしまへんねや。人のん心わあ、砂よし細いやすからなあ…」

やっぱりやめようか…勝手に人の心に入っていくみたいなのは、いくら幽霊でもやりすぎかもしれない。いくら事情を知っていたにしても…

「どうしようか…コロン…」

Nightspastreet

「うむ…やったりさいな!ナギサン!」

「えっ?」

「ナギサンなは、迷いる時にいつなも、あてに聞きんす。自分らで決めていてもだす。だら、やりんなさね!決めなださろ?ナギサンは!」

「他人がホンの少し力を貸すってこともアリだと思うよ。深入りもなんだけど。どっちに転んでもその人のためになるんじゃないかな」

そうなんだ。私はいつも自分で決めていた。でも、やっぱり迷うんだ。
義江さんが自分の想いを遂げられないでいるみたいに私も…でもそれじゃぁ…

「私、行ってきますそうしたいと思うんです

「んだ!ナギサン!ここさ寄ったツイデだなし」

「僕らも知り合った縁だしね」

ありがとう …で、こんなところで待つんですか?…」

「へっ?」

Spatrain

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Nightwark─ 山の空気が澄み渡っている
この真っ暗な空は宇宙まで素通しになってしまったみたいに星や月が輝いている
それでも先の見えない暗さは不安だから夜は飛ばない。
この暗闇の中に小さな灯りでも見えるとホッとしてくる。
昔、お化けや幽霊は暗闇が好きなんだと思っていたけど
いざ、自分がそうなるとそうじゃなかった。
夜は怖い 人の目も怖い だから人目を避けて人のいないところで夜を過ごす。
そういうところを誰かに見られてしまうと、そこはきっと「幽霊屋敷」と呼ばれてしまうだろう。だから注意しないと…一晩泊めてもらう恩があるのだから。

Nightst 先の見通せない夜は確かに怖い
でも、そんな夜だから昼間バラバラに動いていた人たちも家へ帰ってくるのだろう。
だから夜は、本当はとても優しいのだと思う。きっとそうだよ。

小さな隙間があれば私はどこにでも簡単に入ることができる。
いつかのクマにも「霞(かすみ)」と呼ばれたっけ。
朝の霧みたいに掴みどころがない体…
もう、自分の体と離れて何年になるだろうか。
どこへ行ってしまったのだろうか、もうひとつの私。

昨日見たベッドで義江さんが眠っている。
ずーっとひとりぼっちが長いから寂しいんだろうね。私もそうだからわかるよ。
それでも私にはコロンという旅の友達がいるから救われている。

Uttn 義江さん?
本当は彼の元へ行きたいのでしょう?
それができ
ないのは、きっと彼の心が見えなくなっているからなんだね。
義江さんは優しいから、それができないんでしょうね…。
でも自分の気持ちから逃げていちゃいけないよ。
Magisameta_2生きていく意味を求めてこそ人は生きているんだと私は思う。
そして想いには行き先があるのだから旅をさせてあげたい。
たとえその先が行き止まりだったとしても、それを知らないままに生きていくのは辛いことだよ。

私のできることは、小さいけれど力になるよ。
だからお願い。義江さんの想いの先を教えて!

そっと額に手を当てた。
とても暖かい。命の温度─ 心の温度─。私の温かくなってきた。

あーっ…とても暖…かい─

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静かな山の街から 一筋の光が南の空へ向かっていった─

Skyrail

「あっ出た出た!」

「ナギサンやりまったな!」

ヴォーッ!

「落ち着けって!すぐ出発するから!じゃあコロンさん。計画通り路線確認しますんでナギサさんによろしく言っといてください」

「あなん線路は、どんくらい出とらば良しなかな?」

「一度、路線が開けば、しばらく軌跡が残るんですよ。その間に路線を走ってくればコイツも記憶するので開通ですよ。行き先が決まってれば札幌程度なら5分もあればOKです」

「ナギサン願いだぁで、よろしに頼みましわ」

「はい!じゃあ行きます!そうだ…あなた、話し方変だけど良い人ですね」

「んにゃあ、あては石ころだですからに…」

満点の星空の下、山の間を鳥のようにぬいながらやがて、機関車は、空へ登って行く─
普通のSLならば、とても登れないような急勾配をさも当たり前のように…

Railroad

「あーっナギサン!うまくいきただな?今、萩さん共も行きはたよ」

「ホントー?良かった… 私、途中から良くわからなかったんだけど… あ…あれ…?」

「ナギサンどうなしたナギサン

コロンが何か大声だしてたけど、こたえられなかった─
なんだか、とても眠くて…眠くなって…

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駅にいた─
ルピナスが咲き乱れている。ここは…幌加の駅?

何かがこっちへ向かってくる…白く揺らめきながらやって来るそれは、蒸気機関車。私は、たぶんそれが来るのを待っていたのだと思う─
そよ風に揺れる花も そしてその間を飛び交う蜂さえも少しも驚かすことなく汽車はホームへ滑り込んで来る…。

Senro
シューッ…

「ほろかーっ ほろかーっ 10分間停車―っ」

停車した汽車の中から人が降りてきた。
顔はよくわからないけど…たぶんこの汽車の機関士なんだろう…


「鱒見義江様ですね?」

「は…はい…」

「ご依頼がありまして、お客様の荷物を受け取りにタウシュベツから参りました」

「タウシュ…えぇーっ??? わ、私…頼んでないですけど…?」

「お友だちのナギサ様から申し受けております」

「えっ!ナギサ?どこにいるんですか?あの子!」

「彼女は、次の旅に出ました。それで当方で伝言を預かってきております」

「はい?」

「『きっと“幻の橋”を見に行ってください』とのことです。それと当方がお伺いしていましたところでは、お客様には、届けたい『想い』がございますとのことと承知しております。ご記憶にございませんか?」

「想い…? え…あっ… あります!あります!

咄嗟にそう返したものの、あまりに急なことで戸惑った…

「お間違いないようですね。そのお届け物はどのような?」

「あ…そうか!どうしようかな… そうだ!汽笛です!汽笛をお願いします

「汽笛?ですか…?」

「そう!彼に汽笛を聞かせてください!」

「かしこまりました。ではお客さまが、先様のことを想う都度、汽笛をお届けしましょう」

「お願いします!」

「あ…あぁ? 夢かぁ…」

自分の大声で目が覚めた。なんかすごい夢だったな…
そうか…ナギサはもう旅立ったんだね…

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Kuroishidaira

「うまくいくといいなぁ…」

「何をさ言うかな!こっちさ、ぶったまげいただに!ナギサン倒れてりから…」

「へへへーっゴメンでも、もう大丈夫だよ」

「どせならば、あの汽車ん乗ってたらば楽やかったになぁ…」

Kuroishi 「そう?でも私は風に乗って空のほうが好きだよ!コロンは乗っていたかった?」

「わだば地面近しほがいいだすがなや。でもん、ナギサンとこ一緒に行きますわ」

「ありがとっ!コロン!」

「…んで、そこな石ころさは、座ったらイカンにでなか?」

「えっ?うわっ!ゴメンなさい!知らなくて…」

「次は、どこさへ行きまするかナギサン?」

「うーん…風まかせだよ。風まかせ…行こっ!」

「あいな!」

─ そういえば、あの時…途中からわからなくなったとき
           ─義江さんの想いの先にいる人を見たような気がしたよ…

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Dscf7767

今年のスキーシーズンも忙しかったなぁ…あとGWさえ過ぎれば、まとまった休みが取れそうだ。

「義江ちゃん!義江ちゃん!」

「あーっ おばさーん、こんにちはーっ」

「ちょっと!あの子がさぁ、翔平が来月くらいに休暇とって帰ってくるとか電話よこしたのさぁ。それで教えとこうと思ってね。ハッキリした日は言わんのだけどさ…」

ホントですか?…もしかして誰か連れてくるとか…?

「そーんな器用な子じゃないよ。まったく…仕事が恋人だぁ!とか一人前言ってくさるけどね。電話だって半年振りだよ」

「でもぉ!良かったじゃないですか!ひとり息子さんなんですから」

「そうだけどね。私ぁ義江ちゃんに会いに来るんだと思ってたけど?」

「いいえーっ!しばらく連絡してなかったですし…」

「 “義江はどうしてるーっ?”とか、たまに言ってたよ」

へへっ!そうですか?戻ってきたら教えてくださいよ!」

「うん!そうするわね」

そっかぁー ホントに届いたんだなぁ…汽笛。
ありがとーっ!ナギサーっ!

あの子─ 私のところに来た天使だったのかもしれないね…

Nagisainsky

To be 「夏草の線路」 「ルイン・ドロップ」オリジナル版 

              「プチ・ドロップ」改訂版

youtube/“Anniversary of Angel” Ari project

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※画像の一部を「あんずいろ apricot x color」様よりお借りしました。

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