くじら
人生(幽生?)最大の失敗をやらかして、昼間はズーッと空の上にいる。
風の中にいると風を感じない。
地上の音もここまでは聞こえない。
こんなに意固地になってちゃ良くないよなぁって思うけど、今はこうしていたい。
「うーん?決めてないよお…どこか…いやどこか行くよ」
マズイマズイ。左腕に腕時計の姿で巻きついているコロンにそんなこと言うと、また街へ行きたがるに違いない。
「決めておらなら…」 「しりとりしよっ
」
「はあっ?」
「しりとりだよ。知らない?言葉の最後の文字から次の言葉を考えるの。それを順番に言って答えられなかったら負け!言葉の勉強になるでしょ?」
「じゃ!私から。“リンゴ”」
「り?…り…」
「“り”じゃないっよ “ご”」
「ご…呉越同舟」
な…なんで、そんなの知ってんのさ?
「“う”でしよ。コーサンでしたか?ナギサン」
「うー…ウサギ…」
「疑心暗鬼─」
「きっ…キリン…あ…」
「“ん”ですか?ん…」
「私の負けだ…」
「あや?そなすか?負けたらどうなるね?」
…目ざといこと言うなぁ…
「…で、どうしたい?」
「そさな…少しばかり地面に降りたいだすね」
やっぱり…
「この辺でもいい?人はいなさそうなとこだけど」
「かまわねす。わらば石ですから、空の上あ落ち着きないだから」
コロンはあまり空が好きじゃないんだなぁ。
私が地上にいる時と同じで空の上は不安なんだろう。
私も自分のことばかりでコロンのこと少しも考えてなかったよ…
そう言われちゃ仕方ないよね。
「あーっいいですねん。体が伸びるですみたい」
舗装の道の上だけど、車が走ってくる様子はない。近くに駐車する場所もあったけど辺りに人の気配はなかった。私にしてみれば安心できた…
「誰?人?」
「階段だようですがな」
階段?人かと思うじゃない。「おります」なんて…
「ズイズイ行ってみまうせ」
「えっえっ
ちょっと待って
」
地上に降りるとコロンは大胆だ。
人から見られない自信があるからだろうな。
見られてもコロンだったら平気そうだし…
「ずーと川まで降りるとこようです。シオワッカ書いてありぬる」
「塩輪っか?なーにそれ…」
コロンは、階段をピョンピョン降りて先に下まで行っちゃった…。
「何やぁ!軟弱もので若造ですたわ」
「?…えーっ何?クジラ?」
そこにあったのは、さっき降りた道の脇に続く斜面からヌッと顔を出したクジラの頭。
「クジラちゃうね。クジラらは昔、この上で泳ぎします」
そう言われて空を見上げた。
クジラが空を泳ぐ?ここはクジラの幽霊もいるの…
「クジラいたときあ、ここ海の底だす。ズーと前な」
「じゃあその頃のクジラの化石なんだ」
「ちゃうねな。軟弱モノやろす」
「言葉も知らない年寄りのたわ言は久しぶりですね」
わっこのクジラ…しゃべる!
「なやて!もか言いなや」
「ちっ…ちょっとコロン
やめなよっ
」
「お嬢ちゃん、ガチガチの塊になるヤツは考えまでガチガチなんですよ」
「軟弱モンで言うなぁ」
コロンが荒れてる。ガチガチだって…石でも怒るんだ。
「200年ばっこでナマ言うのんか?こんのう!」
「やれやれ…歳で威張り散らすのは、ヒトといっしょですね。はしたない…所詮、石ころに過ぎないのに」
ええっ?200年!じゃコロンはいくつなのさ…
「ナマ言ってなそこ行ったらして、ボコしてやるきに
」
「やめなよーっコロンやめてってーっ
もう行こうよーっ
」
荒っぽいおじさんみたいに大声を出すコロンを無理やり引っぱってきた。
いつも私の左手に絡み付いているくらいだから、この場から引き離すのは容易だったけど…。
その後のコロンは、いつもらしくなく、ずーっと黙り込んでいた。
「ねえ…コロン?どうして“軟弱モノ”なんて言ったの?」
「…あいつらあ水に溶けて歩くがぁ好かんです…エライ思とるて自慢しからしきから…」
…なんだか分かんないなぁ。でも、今日はそっとしておこう…
あーっクジラだ! クジラが空を泳いでるーっ
雲なのかな。それともさっきのクジラ…?
「あても、石ころでなす。ちぽけな石ころ…」
左腕のコロンは、ボソリとつぶやいた…。寂しそうに
【シオワッカについて】
北海道足寄の螺湾という地区。道道664号線をオンネトーへ向かうとシオワッカ公園のが右側にあります。(駐車場あり)
「シオワッカ」はアイヌ語の「シモチク=ワッカ」(飲用できない毒水)の意で多量の炭酸ガスと石灰質鉱物を含む鉱泉が約200年の年月をかけてこのような石灰華半ドームを作りだしました。 ここには多くの鉱物が生成され、季節によって生成される初生鉱物が異なっているそうです。春先にはファテライト、夏にはモノハイドロカルサイト(CaCO3・H2O)、冬にはイカアイト(CaCO3・6H2O)といったものが確認されているそうです。(イカアイトは通常深海にて生成されるもので、陸上で生成されるものはカリフォルニアのモノ湖に次ぎ、世界でも2例しか確認されていません。しかも、モノハイドロカルサイトとイカアイトの両方が生成されているのは世界でもここだけ)自然実豊かで閑散としたところですが世界的に貴重な場所とされています。
自然の驚異は、意外と身近に存在して気がついていないだけかもしれません。
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