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2009年10月19日 (月)

アポロ

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「あーっビックリした…人が来るとは思わなかったよーっ

「そうですなんですか?人間はいろんなとこへ来るあるますね…」

「そう…“あるます”だよ…

なんか、恋の話してたみたいだな

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私はナギサ。幽霊の女の子。風に乗ってあちこち旅をしている。
幽霊だけど人が怖い。怖がられたり、信じられないものを見たというような目で見られると泣きたくなってくるよ…。だから半人前の幽霊。もう「人」じゃないんだけど…
いっしょに旅をしている“
コロン”は、海辺の町で出会った石のお地蔵さんに入っていた魂だ。いつもは腕時計の姿で私の左手に巻きついている。

人を避ける私と違って「人」を見てるのが大好きな“コロン”は人に見られることがないというのもおかしな話だね。見られたくない私は、やたら人に見られてしまう。そういうことが上手なのかコロンは、人間好きでやっぱり性格も明るい。言葉はまだメチャメチャだけど教えているのが私だからなぁ…
そんなひき目な気持ちがあるから、たまに塵や霞を集めて人に化けていても人前ではオドオドしてしまうんだ。

Dscf0265_2 夕べ、 “コロン”と一晩休むところを探してここを見つけた。
幽霊は夜出てくるものと自分でも思っていたけれど、いざ自分がそうなってみると見えない闇夜を飛び回るマネは、とてもできない。だから人の来ないような…例えばこういうところを見つけて朝まで過ごしてる。
やっぱり「元は人」だから屋根のあるところで休みたい。そのほうが安全だと思うから。

Dscf0290 その日、見つけたところは、街からそれほど離れていない夕暮れの林の中に埋もれるようにあった。大きなタンクのようなのがたくさん並んでいる。
木や草で覆われて、ところどころが壊れかけていたから「もしや?」と近づくと思ったとおり人が住んでいない。ところが、ここで夜を明かすことにしたものの、窓の開かない暗い部屋の中にいたものだから朝がわからなくて、人の声にあわてて隠れていた。

「ナギサン“ヒトぎらい”だなに、人が来るとこばかりに居ちゃりますな」

「そうだよね。そういうつもりじゃないんだけど…。こういうところに来る人ってそこの写真撮ってるだけみたいだよ。冷蔵庫とかタイヤとか下ろしに来る人も見たけどね。」

「して…ここは、どな屋敷ですかのな?」

「ここ…?んーと…」

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確かに不思議なところ…。
夕べ大きなタンクに見えたのは翼のある同じ形のロケットかミサイルみたいなの。
ズラーって並んで…何かの基地のようだ。
そう、宇宙基地とかいうのかと思った。
中へ入ると先端の方に大きなベッドと発射口の方は、お風呂があって、いくらなんでもこれが宇宙に向かって飛んでいくようには見えない。
昨日、街であった人と入ったところもベッドとお風呂場しかないような暗い部屋だった。

「ラブホテルて言うとりましすた。さっきの人ら…」

そっか…休むとことか言ってたな。昨日の人も。

「そうそう!休むとこ!疲れたら昼寝したりとかお風呂に入ったりとか…」

Dscf0268「ラブ言うたら何でらすか?」

「ラブ…LOVE…?違うよね…?」

休むのとラブの関係というか意味がわからない。

「たぶん、ここの名前だと思うよ」

「家の名札が前に付けあったやら…花の名前でったよ」

コロンったら姿が見えないと思ったら、知らない間にあちこち行ってたんだ。

あっ…そうそうズーッと前にTVの宇宙が舞台ので“スカイラブ”とかいうのを聞いたことがあったよ。宇宙船のことじゃなかったかな」

「ウチウセン─?」

「きーっとそうだよ!アメリカの宇宙船が月に行ったことがあったんだってさ。アポロ…11号っていったっけかなぁ。私が生まれたのよりもズーッと昔のことらしいけど」

「ヒトがあの月まで行きやられるでますか?へーっナギサン行ってみましょな」

「えーっ無理だよォ

「なして?」

「宇宙は空気が無いんだって。だから風も吹いてないよ。だから私でもあそこまではとても行けないよ。誰も住んでないし…」

と言うか、あんな遠くまでは、行くのも帰るのもそう簡単にはできないだろう。
行けたとしても、このあたりでだって風に流されて行きたい方へ行けないのに日本にすら帰れないと思う。

「そすか。アポウロジウチゴは月まで行ったてに…

「うんうん残念だけど…

よっしゃーっなんとか説得できたぞっっ
ちょっと宇宙まではカンベンだよ

「ここは、なでにウチウセンであいます?こっちは家の形なさに」

Dscf0305「そういえばそうだね。こっちだけ普通の部屋だ」

どの部屋も入口は、大きなシャッターが付いてる。中は物がいっぱいで物置になってるようだ。上の方に外国の家みたいな窓があってガラスが割れている。上は何があるんだろう?この高さなら風が無くても入れそうだ。

「あの窓から入ってみよう」

「はいなす」

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「うわーっ壁に毛が生えてるみたい…」

Dscf2690_2 ふわふわした毛が壁一面に張ってあった。

「誰もいませんねや…」

「それはそうだよ。空家だから」

部屋の中はとても狭い。昨日行ったところよりずーと…
ベッドと風呂場は確かにあるけど、ホントに休むだけのところなんだな。

─いらっしゃいませ─

ひっ だ…誰!コロン?」

「違うでした。わたしでは、にゃあです」

「聞こえたよね?どこからか…」

─いらっしゃいませ おふたり様ごあんないします どうぞ ごゆっくり─

…部屋だ。そうか…部屋が話しかけてきてたんだ。

Dscf2696 「夕べは、向こう側に泊まったので…」

─ご延長ですか?─

「いえ!園長じゃないです。先生でもないし…普通の…普通の?とにかく幽霊です」

─幽霊さまですか。存じ上げなく失礼いたしました… ごゆっくりお楽しみくださいませ─

「ナギサン!なにすかここ?つまんないでしわ」

「シーッ!おかしなこと言ったら叱られるよ!お風呂に入って休むとこだって!」

「休むたて、石みたいドッチャリ座ればら疲れねしょ」

「いや!人は家から出かけてる時は、こういうとこで休まないといけないの!」

Dscf2676 「ナギサンもこな狭いとこで休むですか?」

「うん!あるよ。昨日も…」

「きのお?」

「い…いや違うもっと小さい頃さ。生きてたときの」

─お客様方は、当ホテルの趣旨をご存知ではないようですが─

「へっ?ナギサン寿司やて」

「それ違うと思う…。正直、ここは初めてなのでよくわからないです」

─さようでございますか。さすれば本来プライベートなものですが、差し障りの無い程度で現在までのご利用状況をかいつまんでご説明申し上げます。右手の鏡をご覧下さい─

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ベッド脇の鏡が眩く輝きだした。
この部屋の様子を写しているみたいだ。

「ナギサン!テレビだてや。なんでしかね。おやあ?誰か映って来りましよ…」

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「ここが、地元でもちょっと知れたスポットでさ。営業当時から出るって噂があったそうだよ。その影響で閉鎖されたんだとか…」

「ホントっすか?それ超ヤバクないです?」

Dscf2700 「真っ最中に気配に気がついて窓の方を見ると、女がこっちを恨めしそうに見てたとかいう話さ。窓の外になんか立てない高さなのに」

「へぇっ…怖いッすね。自分、そんなん見たら速攻萎えます。で…どの窓ですか?こっち側にはないですね」

「たしかにそれっぽい窓ないなぁ…こっちの棟じゃないか?」

ギャアーッ…

うわっ!…何!悲鳴じゃないすか?今の!」

「うぉーっビビったぁ…たぶんキツネだろ?いくらなんでも昼間っから出ないって…うわァーッ

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「ギャー出たァーッ

「逃げろ

「ナギサン!ナギサン!置いてかねでっ!」

うわぁーっうわぁーっそんなぁーっ

昨日…あのとき時間がこなくて… 爪が緑にならなかったら…
あのまま、あそこにいたら…
うわぁーっどうしよう!どうしよう!なんてことしてたんだろ!信じらんない!

「ナギサン!どうしたでしたか?」

「なんでもないったらなんでもないよおっ
うわーっ うわーっ

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「アキさん?あれなんだろ。UFO

「えーっ どれ?人工衛星じゃないかなぁ…」

「スッゴイ勢いで飛んでったよ…あれかな?アポロとか言うの…」

「それを言うならスペースシャトルじゃないですか?」

「そっかァ!あっちから来たから、さっきのラブホのが飛んでいったのかな」

「ま…まっさかぁ

YOUTUBE/ポルノグラフィティ 「アポロ」

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コメント

いつのまにか幽霊が2人になってたんですね。

ちょっと笑えました。

投稿: アリス | 2009年10月19日 (月) 20時40分

アリス様>コロンは幽霊とは違うんですけどね。
お地蔵さん出身だから。

投稿: ねこん | 2009年10月20日 (火) 23時06分

この記事へのコメントは終了しました。

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