2012年5月12日 (土)

中村さんと海竜

Kaidanwind

日本という国は、太古の昔は、そのほとんどが海の底であったのだそうだ。
だからそんな遠い昔を偲ばせる…例えば大地でゆったり木の葉を食む巨大な首長竜や肉食恐竜が見つかることはほとんどない。
地殻の隆起で出来上がった山々の太古の地層の中から見つかる化石は、陸のものよりもむしろ、海のものが圧倒的に多いのはそういうことだかららしい。

Mado ここ、北海道むかわ町穂別(旧穂別町)にも9,500万~7,000万年前の太古の地層が隆起していて、そこからは海竜モササウルスやティロサウルスの骨格の一部の化石も見つかっている。
このモササウルスは調査の結果、新種と判明して「ホベツアラキリュウ(愛称:ホッピー)」と名付けられて全身復元の模型がむかわ町立穂別博物館ロビーに展示されています。
その博物館の向かいには、さらに地球創生の太古から現在、そして未来をたどる「穂別地球体験館」があり、私たちの乗る地球という大きな乗物の成り立ちを数十分で知ることができます。

Kamoi

街並みは、太古を髣髴とさせる恐竜のモニュメントをたくさん見ることができる。
だからこの街は、まるで恐竜の時代から現在へひとっ跳びしてきたみたいなのです。
中間を大雑把に飛ばしてしまった…そんな気にもなってしまうのですが、先ほどの博物館の隣には、その気持ちに似つかわしくない大きな旧家が目に入ります。

Photo

その建物は、穂別町(現むかわ町穂別)開拓の先駆者、中村平八郎さんの家で、大正10年から13年にかけて建築されました。

Hari 後に平八郎さんの長男・中村耕平さん(穂別村第7代村長・穂別町初代町長)が受け継いで、現在までに築80年を経過しています。

この立派な旧家もいつしか誰も住まない家になってしまったようですが、平成6年、耕平さんの奥さんが家を含む一帯の土地を町に寄贈しました。その時、すでに建物はかなり痛んでいました。でも、この建物は北海道開拓当時の「下見板張洋館住宅」の形を保っていること、大変骨太な造りで、造作に凝らない直線的な建物になっていること、内外部ともに広葉樹材を多用するなど材料の吟味や丁寧な施工がうかがうことができることから関係者の間で保存の議論が進み、文化庁の有形登文化財、第01-0034号の登録を受けて平成15年に現在地の町立博物館横に移築復元されました。

Irori 平屋建ての主屋を中核として、起り屋根(弓状に流れの中央部分が膨らんだ屋根)の玄関庇をもつ鉄板葺き屋根、片入母屋造り、切妻(屋根の最頂部の棟から地上に向かって二つの傾斜面が本を伏せたような山形の形状をした屋根)造り2階建て。和風と洋風の二つのイメージが見て取れる建築物です。
解体工事の際に屋根裏から棟梁の直筆の署名とともに施工から竣工までの詳細が記された記録(手板)も発見されたそうです。現在と違って建物は、受け渡しの商品というよりも請負の芸術作品という色合いが濃かったように思えます。

この家の初代主、穂別町開拓の先駆者でもある中村平八郎さんは、新潟県上越市高田城下の下小町で問屋を営んでいましたが明治24年、石油資源の調査のために来道。現在の穂別において良質の石油を発見しました。
中村さんも化石(化石燃料)と無縁ではなかったということですね。
そして、同26年に移住。石油業を17年続けたあと(石油資源枯渇?)農業・木炭業に転向。そのかたわら村役場の総代人・村会議員・農会の評議員などの役職も務めていました。

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Niwa 長男の耕平さんは、明治31年に誕生。大正期に渡欧し、各地を視察・酪農業の研修ののち帰町。村の要職を経て昭和31年に第7代村長に就任しました。

当時の穂別村は財政破綻状態で村の建て直しに心血を注ぎ4期16年務めました。その間の昭和37年に町制施行により「穂別町」となる。

Dsc07107 パンフレットに載る移築改修前の中村家住宅母屋は外観は保っているものの鬱蒼とした林の中の不気味な屋敷という印象ですが、造りが堅牢なためか外観をしっかりと保っていて施工の確かさが伺えます。
太古から未来を綴る化石に関わる町の歴史と、そこから近代的なヒトの時代への受け継ぎを証言する中村家屋敷は、単に古の暮らしを彷彿とさせる器としての展示物ではなく、今も町民文化サークルのギャラリーとして現役で利用されているとのことです。

どんな町へいっても古の時を刻んできた旧家を見かけるものですが、官のものと違い民のものは、年月と風雪に痛めつけられて朽ちるままのものがとても多い。
郷土史的背景があっても安全面への配慮から「解体やむなし」として見慣れた街の色から消えていくことは少なくないものです。
昭和という時代も懐かしむ反面、その名残さえもどんどん淘汰されていく。
残されたノスタルジアな気持ちは、どこかで借りてきたように画一化された美化した思い出と混同されて泥団子みたいになっていく。
それでもその泥団子、コロコロコロコロしていると、元の色もわからないくらいにキレイに輝いていくものなのです。
その輝きをみていると、必死になってコロコロしていた苦労、リアルに通り過ぎてきた苦難なんてホントは他愛のないものなのかもしれません。
今「昭和」が輝くのは、そういう苦労から培われてきたからこそ輝いて見えるもの…

Shiftnakamuraside

そう 苦労も悲しみも涙も 時に磨かれてきたから 輝くものになるのです。
数え切れないくらい何度も行き来した床が輝くのも
そうして磨き上げたからなのでしょう。

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2012年1月15日 (日)

ぼっちの凸

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 北海道帯広市 むしろ十勝と言ったほうが北海道外の方には通じるようですが、十勝の中心都市です。
 この帯広市の西部に大きな植樹林と運動施設の広がる『帯広の森』がある。
かつては、市郊外と同じく畑作風景の広がる土地でしたが、数十年の時を経て現在の形になりました。

Photo_2  「帯広の森」の構想は、第五代市長の吉村氏が提唱。昭和34年に策定した市総合計画のなかでは、グリーンベルト的な考えが包含されていました。

 昭和44年、市長がオーストリアを訪問し、そこで『ウィーンの森』に出会ったことから「帯広の森」の構想が具体化する。広大なウィーンの森とそれに共生するウィーン市民に大きな感銘を受け、昭和45年に帯広市第2期総合計画策定審議会を発足させ、「帯広の森」構想を発表しました。 そして、昭和46年4月に策定された第2期帯広市総合計画において、「森」はまちづくりの主要な施策として明確に決定されました。その後、市議会での激しい論争、市民の気運の高まりなどを経て、事業がスタートしました。

 現在の形になった森は面積406.5ヘクタール、幅が約550メートル、延長は11キロメートルの規模で、北部を流れる十勝川や東部を流れる札内川と連携して市街地を包み込むように配置され、憩いの場、学習の場、交流の場、スポーツの場などとして、多くの市民に幅広く利用されています。
 昭和50年から市民植樹祭を開催し、平成16年まで30回、14万8千人が参加で23万本を植樹、平成3年からは育樹祭も開催、平成17年までに15回、のべ1万3千人が参加。

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Photo_4  初期の植樹林は、すでに大きく成長して、まさに森にふさわしい様相になりました。
林の中に設けられた遊歩道は、夏場のウオーキングや犬の散歩、冬は、トライアスロンスキー等で体力づくりの人たちが耐えません。
木漏れ日を浴びながら歩いていくと、時折バラバラとヘリコプターの音がしてくる。
森の切れる向こうには自衛隊の飛行場があるからです。
この飛行場、以前は市の空港でしたが、歴史を遡ると日本軍の飛行場であったそうです。

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 現在は森となった植林地ですが、ひと昔前は、まだ畑で昭和56年頃の空中写真を見ると一帯は、まだパッチワークのような景色の畑作地。植林は始まっていた頃とはいっても森といえる部分は乏しい。
戦後に飛行場周辺の土地は、民間に払い下げられ、1974年頃、森の構想で買い上げられるまで実りの大地となっていた。

そこにこの『掩体壕(えんたいごう)』がある。戦時中は全部で46基あったという。

Map

 掩体壕は、主に航空機(戦闘機)を敵の攻撃から守るための格納庫で、通常は、コンクリート製のかまぼこ型をしており、内部に航空機を収納する。簡易なものは爆風・破片除けの土堤のみで、天井がないものもある。
 ここの壕は小型のもので、翼を広げた飛行機がすっぽり入る凸型をしている。
十勝管内で掩体壕と呼ばれるものはいくつか残っていますが、飛行機ではなく軍事物資格納用に高台下に掘られた洞穴のようなものがほとんどで、飛行機用のトーチカを思わせる構造物は始めて見た。

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 この土地を所有していた方は、入植当初、この壕に木材で屋根を取り付けて住み、住居を建てた後も壕を倉庫として利用し続けて取り壊さなかったそうだ。
実際、46基あったものは、耕作のジャマになるためにほとんどが破壊された。
当時は屋根の跡と思われる鉄骨があったほか、中央部に車輪が通った跡もあり、実際に飛行機が格納されていたらしい。

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 -17℃を下回る今シーズンの最低気温の朝、掩体壕を見に来た。
脇の幹線道路を通る通勤の車から壕は明らかに視界に入るはずだけど誰も目もくれない。
広い空と広い大地。そこにまんべんなく降り積もる雪。
そして憩いの森。

のんびりできそうな要素は充分にそろっていても、人々はとても忙しいのだ。

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2011年5月 5日 (木)

ヘンゼルとグレーテル② 「ヒダル」

Castele

【前回までのあらすじ】

 ナギサは女の子の幽霊。なりきれてない感で自称、半人前の幽霊。
生前は、海の街で暮らす海の大好きな子でしたが、運命は日、彼女を『想い』だけの存在にしてしまいました。両親には声も姿もわからず、やがて彼女を残して家からも去ってしまった。
 行くところもなく、一人そこで暮らしていたナギサは、人から姿を見られることもあり、幽霊騒ぎが起きたことから人嫌いになり家に引きこもるように。多感な年頃のナギサは外の世界に憧れながらも日陰で暮らさねばならなくなった…

ある日、棟続きの家にカズヒロという男の子が越してきて、ひょんなことから押入れの穴越しに付き合うようになる。不思議にも彼にはナギサは普通に生きている子となにひとつ変わらないように見えていた。
 ナギサにも数年ぶりに楽しい日々が訪れたようだが、カズヒロは両親の都合で再び引っ越さねばならなくなってしまった。
再会の約束をしながらもナギサは、また暗がりでひとりぼっち。

 ある嵐の夜、強い風は家の屋根を壊してしまい、引きこもりの暮らしも続けられなくなってきた。
おりしも近所で起こった身に覚えの無い幽霊騒ぎ。様子を伺いに行ったナギサは、風に乗っていろいろな海を旅する幽霊に出会い、風に乗る方法を教わった。

 そうしてナギサの旅は始まったのですが、人の目が怖い彼女の旅は、自然と行き先が『時が残した忘れ形見』の旅になったようです。
 その旅の道中に出会った石地蔵の魂『コロン(石ころなのでナギサがコロンと名付ける)』という旅の道連れもできましたが、ナギサと正反対で“人間観察”の大好きなコロンをなだめるのに毎度ひと苦労…

 今日も一夜の宿として空から見つけた森の中に佇む廃墟へやってきたのですが、なにやらいつもと違い大きくて奇妙な感じのするところのようです。
そこでナギサは、うっかりエレベーターホールから階下に転落。コロンのいる上へ戻ろうとしていたところ、先にコロンの元には怪しい人影が現れていた…

イーッヒッヒッヒ… い?sweat01

Nagisaloftup
「あれ… コロンいない… どこ行ったの?」

上へ戻るとき、ちょっと驚かせてみようと企んでたのに、入れ違いにコロンは下に降りていったみたいだ。戻るって言ったのに…

『コローンsign01 コロコローッsign03 私、ここだよーっ』

Nagisawake 返事がない。
屋上に行ったのだろうか…まさか勝手に表へは行ってないだろうなぁ…
それにしても返事くらいできるだろうに

まてよお…コロンも私を驚かそうとしてしてるんじゃ… そんなとこあるからなぁ。
よし!そうはいかないぞ。 まだ外も明るいし、受けてやろうじゃないか!
回りを気にしないフリをしながらも細心の注意で探すことにしよう。

作りかけで止まってしまったみたいな建物。命が入っていないようで静かだ。
建物の命はいつ入るのだろう…
鉄や石や木や、そのほかいろいろなもので作られたお城。
大きな体を形作る部品は、またそれぞれ命を持って、別な心も持って、ひとつの建物として完成した時、初めて建物としての心になるのだろうか。
私が話してきた建物や橋や、いろんなものたちは「その形として」の心を持っていた。でも、その以前もそれから先のことも、どうなっていくのかよくわからない。

Monster

 そういえば、コロンも始めからコロンじゃなくて大きな石の一部だったということを聞いたことがあった。
それが割れて、小さくなって、小さなひとかたまりになったときに初めて『コロン』という心が目覚めたらしい。
ひとつの体があって、ひとつの命がある人もまた、同じじゃないだろうかと思うことがある。

 元は、何か大きなもののホンの一部で、そこから「私」という欠片が落ちることが誕生というものなのだろう。
今こうして「この世」にとどまるための器を失った欠片。それでも私はまだ私なんだ。

いつか、今の私がもっと小さいものになるか、大きなもののひとつになることで「私」という存在が残っていても別なものとして変っていくのかもしれない。

そういう覚悟は、いつかしないとならないだろう…

Nagisa_up

抜け殻になった建物(体) 抜け出てしまった私

私は、まだ「私」のまま。
体のない半人前な存在の私。 それが「私」

ひとりになると、そんなことを考えてしまう。
このまま何も変らないで、何にもならないでズーッと旅しているけど
こんな日もいつか、終わらせる日が来るんだろうなぁ…
私がこの世界に留まっていこと。それが「迷い」ということのか…。

『幽霊』って、きっとそういうものなんだろう…

えーいっ!ダメだ!ダメだ!happy02sweat01
そんなこと考えてるから、コロンに言われるんだ。rock

『ナギサーン!ひきこもりぁダメですらにぃ。もっと明るくに出りませんとなぁ』

そうだ!コロンを探してたんだ…

 

 

 

一方、海を隔てた向こう側の町。カズヒロは、居候の幽霊に大変うんざりしていた。

Mtbook

「山は良いところよーっ。君も登ってみればいいのに…」

「あんたがそれを言うわけ?」

「私? なにが? どうして?」

「…だって…山で…」sweat02

「…そうよ。山で死んだよ。でも、だからって山が鬼ってことにはならないじゃない…」

「だけどさ…なんつーか…説得に欠けるじゃないか」

「ああ!そっか!…だよね。山で遭難した私の言うことじゃないよね。ハハハ…。でも、あれは私の不注意なんだし、いまさらどうこう言ってもねぇ…」

Wm0010  数ヶ月前から、この幽霊にとり憑かれている。
生前は大学の山岳部員で、登山中の事故で亡くなったそうだ。
捜索では見つけてもらえなかったらしい…。
自力(?)で戻ったその家も、すでに空家になるほど年月が流れて、行き場を無くしてたところに通りかかったのが俺らしい。
始めは、怖いというか、驚いたというか、信じられない気持ちで呆然としていたけど、もう慣れた。
慣れたというよりあきらめたというべきだろうか…

いや!あきらめるもんか! 四六時中傍にいて、やることなすこと全部見られているのは、もうガマンできない。

「別に君をとり殺すつもりなんて全然ないよ。それで私がなにか得するわけでもないしさ…。行き先ができたらちゃんと離れるから、それまで一緒にいさせてよ…。ね?」

断ると、それこそ逆恨みでとり殺されるような気がして嫌とは言えなかった。
選ぶ選ばないというよりこれは、暗黙の強制みたいだ…

「カズ?近頃、食欲ないの?なんだか疲れてるみたいよ」

母さんも言ってた。
やっぱり、やつれて見えるんだろうな。
そりゃそうだよ。いつも幽霊が傍にいるんだから。
言っても信じてくれないだろうけど、寝てるときも 学校に行くときも トイレの中だって…

「ねえsign01まだ終わらないのsign02こんな狭いところじゃ落ち着かないsign03

「なら外に行っててくれよ!出るものも出やしないじゃないか!」

「照れてるの? カワイイ…」

Wm0016 そういう問題じゃないって…!
そもそも幽霊なんてのは、なんていうか、狭くて薄暗いところにいるもんだろ。
しかし…この調子じゃ、やつれてくるのも無理ないな…いつも見張られてるみたいで充分ストレスだ。
幽霊に取り憑かれるっていうのは、たぶんこういうことなんだろう。
「恨み」とか「呪い」ってのは、今はよくわかんないけどさ…

「ところで“ヒダル”…」

「だからsign03私の名前は“ヒカル”annoy

幽霊の名は「ヒカル」という。
それを「ヒダル」と聞き違えただけで、すごくムッとしてた。

「ヒダルって“大台ケ原”あたりに出るやつでしょ。伝説ににでてくる妖怪でさ、入山した人に取り憑いて衰弱死させるんだとか…怖いよねぇ…」

※三重県と奈良県の県境にある標高1400~1600の大地。山中で突然の脱力感や体に重みを感じることがあり歩くこともできなくなるという。火山ガスの影響が考えられたが火山は存在しない場所である。調査により、森林内の枯葉などの堆積物が腐敗する過程に発生する二酸化炭素説が有力。「大台ケ原」の場合、有機物の存在・暖かい気温・湿度など二酸化炭素の発生する要因が整っていることが判明している。これは、大台ケ原に限ったことではなく、季節により日本全国で同様のことは起こりうる。二酸化炭素を大量に吸い込むと心拍数の増大、脱力感、意識障害など中毒症状が現れるため、登山の際は窪地などガスの溜まりやすいところでは注意が必要。また単独登山も避けるべきである。

 

 

それじゃアンタそのまんまじゃないか…と思うけど…冗談でも言えない。
ホントに殺されちゃかなわないから。
でも、嫌味を込めて、いつも間違えたフリで“ヒダル”と呼んでる。
いつもそうだとさすがの幽霊でもあきらめが付くのか“ヒダル”で返事するようになった。

Hol 「ヒダル?なんで、よりによって俺にくっ付いてるのさ?中学生の俺にさ」

「うーん…なんとなく、つかまりやすい人がわかるのかな…。そう!アサリみたいな感じで」

「アサリsign02

「水に漬けたアサリみたいに白いのを出しててさ。いつもじゃないけどね。 それがあると私はつかまって行けるの。多くの人はいつもピッタリ口を閉じてるから、私も無理。ここまで戻ってこられたのも、そうして人を渡り歩いて来たからだよ」

「舌って…そんなのをだらしなく出してるわけなのかい」

「違うってsign01それが「霊感」っていうものなんだよ。霊が絡みつきやすいものなんだよ。君はそういうところが優れているよ」

…なんだ、それって褒められてるわけ?

「じゃあ、もっと役に立ちそうなのに乗り換えてくれればいいじゃないか。霊能者みたいなのとかさ」

「ところが、お寺とかにも寄ってみたけどさぁ、そんな人が都合よくどこにでもいるわけじゃないのさ。山から町まで降りてきてもここに来るまで何年も足止めになったんだし」

「でもさ、俺に取り憑いたって何もできないよ」

「確かに、中学生じゃねぇ…。だけど、こうして話までできたのは君が始めてよ。…君さ、前にもこういうことあったんじゃないの?」

「前にって…取り憑かれたこと? ないよsign03

「気づかなかっただけじゃないの? 私はわかるよ。君にはそんな匂いがある…」

「えっ?どんな匂い?」

「いやぁ頭悪いよねsign01“匂い”ていうのは例えsign03

ヒダルはそう言うけど、幽霊と知り合ったことなんか、ただの一度だってない! なかったはずだ…

 

 

 

Syata

「コローンsign03あれぇ…ホントどこいっちゃったのかなぁ…」happy02sweat01

あちこち探した。 ずいぶん探した。
古い鍋や壁の穴まで覗いてきたけれどコロンは、どこにもいる様子がない。
この建物は大きすぎるんだな…。
いよいよとなったら「線」を延ばして建物全体を探るしかないか…。
それだと、このゲームのルールにはインチキだろうけど。

わあっsign02 ビックリしたsign03コロン~っ!どこ行ってたの?」coldsweats02

Nagisastan 「…」

「コロンも人…いや、石が悪いよぉっ。 たしかに私の負けだけどさ」catface

「…」

「…?」

あれ?怒ってるのかな…?私、何か悪いことした?

「ねぇ…コロン… まだ外は明るいし、近くの街まで行ってこようか…」

「…」

「違うsign01コロンじゃないsign03…あなた…いったい誰sign02

Gosthand4th

『うわぁっsign02

たくさんの手に捕まれて
私の体は、グリグリ コネコネ粘土みたいに千切られそうになったり、丸められたり…
なんとか逃げようとしたけれど、すぐに何がなんだかわけが分からなくなった。

 

 

気がつくと─錆だらけの狭い部屋にいた…

「あや?ナギサン お目覚めしたすか。お早な到着でしなやぁ!」

「あっsign01コロンsign03 やっぱり、あれコロンじゃなかったんだsign03よかったぁhappy01

「ナギサン、あやつらがあてに見えましたのだか?」

「いや…sweat01そうじゃなくて…えーと…ゴメン…。sweat02 それよか何なの、あの人sign01なにも悪いことしてないのに、こんなとこに詰め込んでぇ…もしかして勝手にここに入ってきたから?」

「あっしも良ぉわかりしませんなだぁ」

「面倒だし、こっそり出てこうよ。今ならいないみたいだし、こんな隙間だらけのとこならすぐに逃げられるよ」

「どやかなぁ…あては無理やぁて思いしまはるよ」

「大丈夫。ちょっと様子を見てくる」

ホントのところアイツがなんなのかはどうでもいい。
めんどうなことからは、できるだけ早いうちに逃れるべきだ…
少なくともこんなところに押し込められたんじゃ、相手が善人とは思えないから。

Nagisaesc5

「ナギサン?どなでしかな?」

大丈夫みたい。今はいな… わっsign02 ち、ちょっと待ってsign01お願いsign03私の話聞いてsign03やめてやめてヤメテーっsweat01sweat01

Nagidango

「ナギサン、大ジョブか? えらい早いこったんなぁ…」

「あぅ…ナギサン…もうダメぇ…」sweat02

 卵の中に入れられて振り回されたみたいに、もうフラフラだった。
なんだか、すごく面倒なことになったのみたいだ。
どうしようかとゴチャゴチャな頭で考えてたら、ずっと前に読んだ『ヘンデルとグレーテル』のお話がよぎってくる。

森で迷った兄妹が見つけたお菓子の家は、恐ろしい魔女の家で、捕まって食べられそうになるというお話。
私とコロンもあいつに食べられてしまうのかなぁ…

Glow

そう思うと、なんだか悲しくなってきた…crying

                             (つづく)

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2010年11月28日 (日)

ヘンゼルとグレーテル ①

           「わーっsign03とっとっとと…」coldsweats02

Dscf4911

「ナギサーン…危い着陸だしな。落りゃあ石ころかて粉々になりるやす」

「そ…そんなこと言ったってさ…こんな小さいところに降りるの大変なんだよーっ」coldsweats01

「そんに小さなとこすかなぁ…」

私はナギサ。名乗るほどでもない普通の幽霊の女の子。
風に乗って、あちこちへと風任せの旅をしている。
今日は、たくさんの木が生い茂る緑の海をなぞりながらここまで来た。

Dscf49082

もうじき日が暮れてくるから泊まるところを探してた。ずーっと樹海を越えて。
近くに街も見えたけれど、人のこないこういうところで適当なところを探すのは大変だ…。今日のところはうまく見つかったけど、森の中に野宿することになるとイタズラなキツネや腹ペコなクマにからかわれることになるから、それは避けたい。
やっぱり屋根や壁のある建物の中のほうが落ち着くことができる。

「今日のとこわ、ここになりあすか?」

「うん…ほかにいいところも見当たらないしね」

「さきほどな、街が見えられたんだがに」

「それは…コロンは、いいけどさ…」coldsweats01

Dscf4897 コロンは海沿いの町で出会ったお地蔵様の彫られた石の魂。コロンの名前は私が付けた。
それから一緒に旅をしている。

「人間観察」マニアのコロンと私は正反対。
そのコロンは、人から姿を見られることはないけど、私はチラチラ見られることがあるから嫌なんだ。

体があると普通の人。無くなれば怖い幽霊。
人にとって『死』は恐れに他ならないから、その向こう側のものであるべき私は、まだ生きている人から見ると『恐ろしいもの』でしかないのだろう。
それでも私は、ずっとこちら側にいる。まだこっち側にいなければならないんだ。
だから、なるべく『こちら側のルール』に従わなければならないのだと思う。
私は幽霊なんだから…

「ナギサン、人目辛いなんだば人にさ化ければ良しなに?」

「うーん…じゃ明日ね。明日なら少し良いよ…。久しぶりだし少しくらいなら」

こんな私にも数時間だけ生きている人と同じ姿になることができる力がある。
でも、たった数時間ほどしかその体のままでいられない。

春の大地から立ち上る陽炎

夏の朝、深く吐き出された木々の深呼吸

秋の実りから立ち上る豊かな収穫の芳香

そして冬の陽射しの中できらめく氷の粒

そんな、この地上に溢れる「体を作る元」を寄せ集めて作り上げた借り物の体にすぎないから…。

Dscf4788

「わかりったましてや。しかし此処なは大きな根城に見えしです」

「うん。たしかに大きいとこだよ。学校じゃなさそうだし病院かホテルの感じだよね…」

「ナギサン。さっき小さいとこや言ったやねすか?」

「だからあっsweat01それは、そらから見たときの事だって」pout

「そうでしか?こんだら大きいと下にゃ誰か居るのやもしれねすな」

「うん…そだね。いちお調べておいたほうがいいかも…」confident

木立が傍まで迫って支えられているみたいな建物。
空から見おろしたときは、滑走路みたいだったけれど、意外と高い建物だったんだ。
いつもは空家とか、橋の下やマンホールなので、こんな大きなところも久しぶりで、まだ少し落ち着けない。
屋上のあちこちは、棘みたいな太い針金がたくさん張り出していて、樹の海に浮かぶ武装した船のようだ。
その異様な感じが落ち着けない原因のひとつなのだと思う。

Colon_jump

「ナギサーン!下は、何しろメイロみたなようでな。あてらは先ん行っておりましすから!」

「えっsign02あっsign01ちょっと待ってよコロンsign03coldsweats02

人がいるかもしれないという私にとっての不安は、コロンにとって期待らしく、ホイホイ下へ降りていった。
風に乗るときは私の左腕に腕時計の姿でしがみ付いてるだけなのに…
私も用心しつつ後を追う…。

Dscf4923

あちこちからサボテンみたいに棘を生やした薄っぺらな階段を降りる。
コロンはどこまで行ったのかな…
ふたりでの旅も長いから1人になると不安になってくる。
幽霊になってから、ずーっと孤独だったときは何とも思わなくなってたけど、やはり孤独は辛い。
人に見られるのが辛いと言いながら、人の香りが残る場所の近くをさまよう私は、やっぱり寂しいんだろう。
どうせだったら、人と幽霊が共存できる世の中にならないかなぁ…と思うこともあるけど、そんなことを考えてしまう自分に少し笑った…。

Dscf4927 「ナギサン!遅いますや。でかいナリしてるに、なにやら細げぇとこだねや」

ところどころに光の溜まり場を作りながら奥まで真っ直ぐ続く廊下が見えた。

「わーっ、やっぱりホテルみたいだねsign01もしかしたら病院かもしれないけど…smile

「なにげで細く分けとりますねや?」

「このひとつひとつが部屋なんだよ。たぶん」

でも、それにしては。まだ何か不思議に殺風景な気がしてた。

「ここなの赤い書いたらありますのは何やでナギサン?」

「これは…字と違うよ。なにかの記号だよ。意味は分からないけど…」catface

Dscf4856

「人はここだで何しますのかいな?」

「何って…旅行だよ。旅の途中で休んだり寝たりする場所」

「人さは寝ないとそんなにダメんなになりにか?」

「そう…休ませてあげないと弱ってしまうよ。私も夜は毎日眠くなってたよ」

「そらメンドなものでしな。ホンに人は不思議にゃモンでだなよ」

Dscf4930

廊下の左右にある部屋を順に覗きながら、ふと思い出したことがある。

まだ、自分の体があった頃。
こんな風に大きくて、部屋のたくさんあるホテルか温泉に泊まった時のこと─
自動販売機までジュースを買いに行ったら帰りに部屋がわからなくなったことがあった。
全部同じドアで、開けてみたら掃除道具入れだったりして…???!

そうだ…ドアだよ!

「コロン?ここの部屋にはドアのあるところがひとつもないみたいだよsign01

「そうなすか?あては、ども思いやしまへんねやが」

ドアに気が付くと、他のいろんなことにも気が付いてきた。
壁がみんな剥きだしの冷たいコンクリートのままで、壁紙がはがされた様子もない。
部屋の中もガラスの欠片が散らばっていないから、ずっと前から窓は入っていなかったような感じがする。

Nagisa_on_room

「ねぇ…?古くなってるようだけど、ここ作りかけなんじゃないかなぁ…」

「そすかな。あそこんらには誰か住んどた跡んもあるましたにが?」

Dscf4817 「えっsign01ホントsign02coldsweats02

コロンの言ってた部屋には、確かに鍋とか料理に使ったものが転がってる。
埃を被っているので、しばらく前の名残ではあるようだ。

(でも、用心しないと…誰かがいるのかもしれない)

映画の主役になったような気がしてきた。
姿の見えない敵を探して部屋をひとつ、またひとつと確認していく…
こんな大きな建物に来たのは、やっぱり面倒だったかもしれない。
そう思いつつ私もこのゲームにはまり込んでいた…。

Dscf4918 「あれゃ?ナギサン?どこ行きはりましたいなぁっ?」

「シッ!こっちだよ… あっわわわぁあーっsign02coldsweats02

「なしたか?ナギサン?ナギサン!」

「こっちだよ~っ」happy02

「どっちこでか?あれぁ?ナギサンそんなだとこで何してるだか?」

「落ちたーっ…」coldsweats01

あ~っもうゲームオーバーか…。死ぬかと思った…。(幽霊だけど)

こっちを見下ろしているコロンの顔がすごく小さく見えた。3階分くらい落ちたんだな…
どうやら入ったのがエレベーターの部屋にだったらしい。
やはり作りかけの建物だったようでエレベーターの箱もなかった。

「あても、そこいらに落ちたほがいいですかーっ?」

「いやっsign03いいよぉっsign01私がそっちに戻るから」

「そこいらはどのようになるてますか?」

「そっちと同じだと思うよ…上よりは広いみたいだけど。階段…どこだろ…」gawk

Nagisa_stand

ここは一番下の階で広く見えるのはロビーだかららしく、さっきの階よりも天井が高い。
湿った泥の流れ込んだ床は動物の足跡に混じって人の靴跡もいくつかあった。
ドキッとしたけれど、そのいずれも新しいものではないようで、人がしばらく来ていないらしいのは、わかる…。

「ナギサンも奇特しはりにますなぁ…」

Colonback3

「あや?ヌシはどちらのモノでっか?」

                                (つづく)

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2010年10月 3日 (日)

大きな石を見てきた

Dscf8091

大きな石を見てきた。

石といっても長さ6メートル、重さ200tもあるらしい。石というよりも岩だ。
この岩は、もう少し奥地の岩盤から切り取られてここまで運ばれたという。

Dscf7996

北海道沙流川郡日高町
国道274号線と237号線が交差する内陸の市街地。
山間の街というよりも町の際まで山が攻めこんでいるような景観。
でも、ここに暮らす人々にとって、この神々しい山は、母なる故郷の山に他ならないだろう。

Dscf8107 この地に北海道開拓と農業者育成に貢献した型破りな男が通っていたそうだ。
それが北海道農業専門学校(八紘学園)の創立者で初代理事長である栗林元二郎(1896-1977)氏。

元二郎氏は秋田県稲川町の農家の次男として生まれる。しかし時代は長男が家督を継ぐため、次男以下は、土地も与えられず農業を志すのは、とても難しかった。
そこで元二郎氏は、同じ身の上の次男・三男を集めて北海道開拓に渡ってきた。
北海道庁との契約で5年で一定面積の開墾が完了すれば自分の土地が手に入るという。
そうしてやってきたのが現在の十勝の芽室町上美生(かみびせい)。しかし、広大な原生林を目の当たりにした仲間はあまりの広さに怖気づいてしまう。

「広すぎる。きっと無理だ…」

その様子を感じ取った元二郎は、徹底的な共同作業と自らも1日20時間労働で開墾に満身。馬耕技術も3日で身に付ける頑張り様。
みるみる広がる真っ黒な開墾地…その景色に皆、自信を深めたそうです。

そうして元二郎氏は、5年の契約を3年で完了。これが北海道庁に認められ元二郎氏は功労賞を受けられました。その後、元二郎氏自信は農業を営まず北海道の移民招致の仕事をするようになりました。
その頃から農業を志せど土地を持てず萎んでいくだけの二男・三男。また、農業の実体験を持てども近代化の波に乗ることのできない日本農業を憂い、農業学園の夢を抱き始めました。それが現在の「北海道農業専門学校 八紘学園」の礎となりました。

Dscf8102

Dscf8106 そんな元二郎氏とこの巨石が、どうも結びつかない。
功績ばかりが取り上げられるため、あまり知る機会がありませんが、氏は鉱石収集を趣味としており、札幌市豊平区月寒東の八紘学園敷地内にある旧栗林邸にはその収集で集められた大きな銘石で築かれた石庭があります。(年に1度花菖蒲園公開時に一般開放)
その氏が1965年頃から日高山脈の銘石を掘り出すために日高町千栄地区に通っていました。
国道274号線を帯広方面に向かい、日高市街を越えた道沿いに巨大な庭石やそれらの石の販売店が目に付く。それらの多くが「日高石」と呼ばれているものです。この名は日高で産出する“銘石”としての名称で、やや青みがかったこの岩石は、学術的には石英片岩といい、岩石が地中深くの高圧下の変成作用を受けてできた変成岩です。
一定方向に割れやすい片理面や、これが複雑にうねる微褶曲構造が見られる。もとの岩石は一様なものではなく、白っぽくて堆積構造の見える部分は泥岩に、青っぽい部分は砂岩に由来すると思われます。また、緑色がかった玄武岩片も含まれています。

Dscf8100 元二郎氏は、千呂露(チロロ)川支流ペンケユクトラシナイ沢から200tにおよぶ巨石をとり、沢口まで運びました。ところが下流にかかる橋の重量制限が問題になり、この場所から運び出す計画は頓挫。それ以後は運ぶことはせず、日高町に寄贈されました。
これが現在も残る「チロロの巨石」。
これが、切り出されたものとしては国内最大の結晶片岩といわれるそうです。

山間の草原。その景色の中で一見不似合いな巨石。
栗林元二郎という人の大きさと、大昔から日高山脈に住むといわれる竜神の伝説が相まって不思議で雄大な景観を作り出しています。
札幌の石庭に並ぶことはできなかったけれど、これはこれで完成した眺めのような気がしてきた…。

Dscf8094

石は、想像を絶するほど大きい。
その石も周囲の山からすれば、とても“ちっぽけ”であるかもしれない。
その“ちっぽけ”な石に想像を絶する自分は、もっともっと“ちっぽけ”です。
だから自分自身もその力も“ちっぽけ”と信じるだろう。
でも、自分を“ちっぽけ”とは微塵も考えなかった人がいて
偉大なる山の片鱗を引き剥がして、ここに置きました。

“ちっぽけ”でもできることがあるのです。
“ちっぽけ”だからできることがあったのです。

自分のすることが“ちっぽけ”なんじゃなく
“ちっぽけ”と思う自分が、それを“ちっぽけ”なことにしてしまう

Dscf8115

石は、その想いを記録した記憶メディアとして
ここでログインする人を待ち続けている。

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2010年9月12日 (日)

見通せる壁

Dsc00462

壁は空間を小分けするものだ。
そして社会を細分化していくものにも思える。

空間の分割は、そこに隣とは異質な空間を形成することを可能にする。

凍てつく夜に春を置き、酷暑の日向も軽くする
漆黒の夜を光で照らし 雲ひとつ無い青空の下、影を閉じ込める

土の壁 石の壁 レンガの壁 コンクリートの壁 鉄板の壁

壁は塗り固めて具象化した構造物だけではなく
個々の心の中にも壁ができる。

何者も通さぬ壁 選んだものだけを通す壁
自分を幽閉するための壁 本当の自分を晒さないための壁

比喩的にあらわされる壁は
信念の強さと自分の弱さと、両極端なものになる。
とにかく壁は、中のものか外のもののいずれかを守ることに代わりはないようだ。

ここにひとつの壁がある。
かつて産炭地として賑わった町の追憶の壁
大きな鉱床のあちこちに開けられた穴の中、壁が築かれ崩した壁を地上に掘りあげる。
地上にも多くの壁を持つ施設が作られて、掘り出した壁を分類して壁の中に格納して運ぶ。

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壁はまた壁を運び、新しい壁を築く
小さな壁の群れが石畳のように地上を埋めていく
壁は時代を作り、歴史を壁のごとく積み上げていった。

高く高くなった壁、やがてその高さゆえに崩れるがごとく全てを丸め込んで小さくなった。
具象化した壁はその意義を失い、新たな時代の壁を築くために開放され、あるいは古の壁として緑の壁の奥深く幽閉される。

失われた壁は、全て新しい壁に取って代わられたわけではなく、そのなかで暮らした人々の記憶を固定する器として生き続けた。

記憶を守る壁 想い出を格納する壁 悪夢を隔離する壁

失った壁 手に入れた壁
己を失った壁がゲシュタルト崩壊していく…

この壁は記憶の蓋ではない。
元は四角四面の壁を持つ選炭施設の壁の1枚だったそうだ。
町の歴史を振り返る人にとってこの壁は記憶の壁を開くための白昼幻灯機のスクリーンなのかもしれない。

そう、劇場のスクリーンも壁だ。
壁は、その向こうにある何かを見えなくするものではなく、むしろその向こうにあるものを実感させるものに他ならない。

きっとそうなんだと思う。

Dsc00464

北海道東の採炭の歴史は北海道内でも古く「開拓使事業報告」という記録によると、安政3年、幕府が初めて獺津内(オソツナイ)の石炭をほりはじめたのが始まりとされる。
当時はまだ「石炭」という言葉がなく、「媒炭(ばいたん)」と書かれていたそうだ。

本格的に石炭が掘られるようになるのは安政4年、箱館(函館)に来る外国船の要望に応じるためであり、また箱館奉行も鉱物の精製のために石炭による燃料確保を求めていたからである。

やがて採炭地が岩内の茅沼へ移され、白糠の採炭は元治元年(1864)に中止されることとなる。
この幕府の採炭はみずから消費するのではなく流通商品として売買されるものであった。実際の炭田の開発は明治20年、硫黄の製錬の燃料、輸送の汽車・汽船の動力源として産業資本により進められた。

新白糠炭鉱は、昭和21年、再び石炭資源が脚光を浴び、現在の通称『石炭岬(実際には「石炭崎」と呼ぶ)』の鉱脈を採炭するため営業をはじめ、昭和39年まで採炭が続けられた。

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現在、白糠町で産炭地を記念して操業時の選炭場の壁に碑板を埋め込んだ『新白糠炭鉱創操業地記念碑』(平成8年)を建立した。

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2010年8月25日 (水)

ロビンソン ②

「えっsign02カズが、なんであんな空家にいたんだよsign03

Night2

「それは…聞いたけど言わないのよ…ずっと黙っているだけで…。警察まで引き取りに行ってくださった先生の話だと、その家で叫び声がしたって通報で警察が要ったらカズが中でボーっと座っていたそうだけど…」

「お前は迎えに行かなかったのか?」

「そんな!仕事中じゃ携帯持てなかったし…警察の話だと、放心状態で何も話せる状態じゃなかったそうで…。でも怪我をしている風じゃないし、こっちの言うことに頷いたりできたから今夜は様子を見ましょうってことなんだけど」

「まさか、イジメとか…」

「先生は、そんな様子はなかったっていうし…」

「そんなのわかるもんか!わかった、俺がカズに聞いてくる」

「いや!よして!今はそっとしておいてあげたほうがいいと思う…」

A0006_001075

「しかし普通じゃないぞ?あんな半分潰れて取り壊し寸前の廃屋にいたなんて!誰かに連れ込まれたとか、何かあったんだろ?」

「そうだけど…こういうことは、あせっちゃいけないと思うのよ…」

「しかしなあ…」

下から聞こえてた親父の大声が収まった。どうなることかと思った…
でも、聞かれたとしても、どう言えただろう…
あの時はギリギリだった。必死だった!じゃないと、自分が壊されるみたいな気がしていた…
あれは今朝、いつも通るあの家の前に差し掛かったときのこと…
いつも気にはなっていたけど、まさかあんなことになるなんて…。

Morning
 
「ん…?どしたカズ!遅刻すっぞーっ!」

「うん?ああ…。あのさ、このボロい家ってなんなんだ?」

House いつもの朝、いつもの通り道。いつもなんだから気にならなくなってもいいはずなのに見上げてしまう家がある。
住宅地の途中にあって、回りはキレイな家ばかりなのに庭木がうっそうとして気味の悪いところだ。人が住まなくなって何年も立っている感じ。
葉の茂る季節になると家は1階の辺りは覆い隠されて、2階しか見えなくなる。
ウチの入っている町内会とは違うからどういう家なのかは知らない…

Kazu1_3「あれ?カズ知らないのか?」

「知らんさ。こいつ転校生だし」

「ここ幽霊屋敷だぜ。殺人があったんだってさ。小3までビビッてこの道、通れるやついなかったくらいだ」

「でるのか?」

Shin_2「うーん…見たってやつもいたけど、どうなんだかなぁ…マスクの女がいたとか、テケテケが入ってったとか、ウソくさい話ばっかだったけどなぁ」

「でも、あん時はビビッたよなぁ…集団下校したこともあった」

「で、ホントのとこ、どうなんだよ」

「デマだろ!殺人なんかなかったらしいし」

「そうそう都市伝説!ウチで聞いたけど、そんな話知らんって言ってたぜ」

「売家の看板あったけど、それもいつの間にかなくなってた」

「ふーん…」

「おい!マジヤバイ!あと5分!」

「今度親にチクられたらDS没収だ!走ろ!」

「おっ!」

─2階の窓に誰かいた…女の人がこっちを見てた。たぶん─

Scool

…………………………………………………………

帰り道。あの家のところ─
朝のことがズッと気になっていた。
家の前をチラ見しながらて通たけど何かいる様子はない…。たぶんあれは気のせいなんだろう…

Flower 「きゃっsign03

「うわっsign03

家の方ばかり気になっていたので誰かとぶつかった。

「すいません!ごめんなさい!大丈夫ですか?」

「いいえ…大丈夫。私こそボンヤリしててごめんなさい…。あら?あなたは今朝の…」

「えっsign02

そうだ!この人は今朝、家の中から俺を見ていた人だ…!
朝っぱらからあんな廃屋の中で何してたんだろ?怪しいよな…でも普通の人だし、異常者って感じでもない。

「あ…あの…この家にいましたよね…?」

「うん。驚かせた?ここは私がいた家だから…。ずいぶん前だからこんなになっちゃったけど、なんだか懐かしくってね…。」

なんだ、そうか。そうだよなぁ。昼間ッから幽霊じゃあるまいし…

Reaf 「…ですよね。てっきり…」

「…幽霊かと思った?」

「いや…そんな、別に…」

「古くってボロボロだけど、想い出がたくさんあるのよ。あなたはどう?」

「いえ、ウチは社宅だし、引越し多かったから家のことなんか…」

「家の種類の問題じゃないわ。帰れるところがあるのは良いことよ。でも、それだけじゃうかばれないわね」

なんだか空気みたいな感じの人だ。目の前にいるのになんだかここにいないみたいに思える。これが大人の女ってやつかな…

「せっかくだから中を見てみない?けっこう楽しいのよ」

「え…でも、この家は…」

「幽霊屋敷じゃないかって?それでずいぶん苦労もしたわ。窓ガラスは割られるし、ゴミは投げ込まれるし…何も悪いことなんかしてないのにね。家を放っておいたこっちも悪いけど」

なんだか、かわいそうな気がして、だから断りにくくなった。
それで、ちょっとだけ家を見せてもらうことに…。

Tv

「懐かしいわ…私の小さい頃。こんなに痛々しく変わり果てたのに…かえって懐かしさが鮮やかに思い出せるの」

ボロボロな家をいとおしむように壁や埃だらけのテレビを撫でている。
でも、こっちにしてみれば薄気味悪くてたまったもんじゃない。
家の中を見てたら薄気味悪くて少し肌寒い感じがしてくる…いや、明らかに寒い。

Dscf7870 「ところで近所の人?」

「いえ違います…ここは学校へ行く通り道で…」

「そう…私のことは知ってる?」

「いや…知らないです。この町に来て3年くらいでズーッと点々としてたから…」

「そっかぁ…引越し多かったんだもんね。私はこの家を出たのは1回きり…。それが最後だったけど…」

「え…?」

「帰りたくて、やっとの思いで戻ってきたのに父も母も祖母もいなくなってた…」

「…」

Dscf7863

「私ね…大学に行って山岳部に入ったの。わかる?山岳部って」

「ああ…登山とかの…」

「そう…そこで色々な山に登ったんだよね。見たことある?いつも頭上にある雲がズーッと下に見えるところって…」

「いや、ないです」

「そこで…足を滑らせて、落ちて…」

「大怪我したんですか?」

「わかんない…動けなかったからたぶんね。でもすぐに助けが来ると思った。だけど…」

もう夕方を過ぎたせいか寒くなってきた。それにしても今日はいつもより冷えてくる。

「だけど…誰も来てくれなかった!いくら待っても何年待ってもsign03

「?」

なんだ?なに言ってるんだ?この人…

Wm39「だから…自分で降りたのよ。人を見つけて呼んだけど誰も返事をしてくれない。誰も私に気が付いてくれないの。それに、やっと家へ戻るとこの有様…。信じられる?あれから12年も経っていたなんて…」

あれ…ヤバイな…まじヤバイ!

「お願いsign01助けてsign03私のことをわかってくれるのは、あなただけなのsign01この家ももうすぐ壊されるsign03そしたら私はどこへ行ったらいいのsign02

「いや…sweat01ち…ちょっと待ってください!誰か呼んできます!」

「ダメsign03あなたを行かせたら、また1人になる!そんなのイヤだ…」

「あっ…うわぁーっsign02

Winky

「えっ?…なに?」

「うんにゃ!あては、なんも言っておらんのだらに…」

「なんか変な声したよ…」

「そりはな、きっと幽霊じゃないすかね?」

「えーっ!怖いこと言わないでよ!…って私たちが幽霊じゃない!ハハハ…」coldsweats01

「それ、どの辺がおもしろかね。ナギサン?」

「いやぁ~っ!気難しいよおっ。コロン!」gawk

「メンボクないすな」

たしかに確かに呼ばれた気がしたけど…たぶん…
モヤモヤした気持ちでいるから空耳なんかするのかな…

…………………………………………………………

あの後のことは覚えていない。
気が付いたら警察官が僕の顔を覗き込んで何か言っている。
返事をしようと思ったけど自分が自分じゃないみたいだった。
それから、どこかに連れて行かれて先生が来たことは覚えている。
先生に家に連れて行かれて母さんに会った時は自分が戻ったようだったけど何を話せばいいのかわからなかった。

「ホントにカズには困ったもんだなぁ…。そういや北海道からこっちに渡るときにも妙なことがあったんだぞ」

「なに?」

「あの、●●にいた時のことさ。2軒続きの借家にいただろ?隣はいつも留守がちだったけど、そこの子と遊んだってカズが良く言ってただろ?」

「ああ…そんなことも言ってたわね。そこが?」

「あの隣な…実は…」

急に親父の声が小さくなって肝心なところが聞こえなくなった。
北海道か…懐かしいなぁ…。●●での海が見える町が一番楽しかった。
ナギサって隣の子と押入れの穴越しに遊んだのが楽しかった…。
たしか…病気であまり外へいけないとかだった。
押入れ越しに話合うのって、なんだか秘密の付き合いみたいでドキドキしてた。
どうしてるのかなぁ…ナギサ…

Dsc00267

「あれぇっ?…まただ…」gawk

「どしたんだらか?」

「いや…なんでもない」coldsweats01

「またソラミミでか?」

「うーん…とにかく今夜泊まるとこ探さないと…もう真っ暗だし」

「あては、この辺でも良かでれすがな」

「この辺はまずいよ!街中だし…」

それにしてもなんだろ… think

……………………………………………………………

Wm0016 「ねぇ…私のこと見えてるんでしょお?だったら無視しないでよォ…」

「なんだよ!騙しやがって!俺は子どもだぜ。あんたに何してあげられるって言うんだよ!もっと何とかできる奴のところへ行けばいいだろ?」

「そんなこと言ったって…私…どこもいくところがないのに…。ジャマしないからいいでしょ?…それに人には親切にするものよ。特に女性には─」

幽霊のくせに、なに言ってんだよ!まったく…

…………………………………………………………

Dsc00278

「え…?死んだの?その子…!」

「シーッ!カズに聞こえるって…。ウチがあそこへ入る数年前に防波堤で遊んでた女の子が海に落ちたんだそうだ。で…それが原因らしく、夫婦仲が悪化して蒸発したらしい…」

「え?」

「娘の事故死で奥さんのこと責めたんだとさ。先に旦那の方が家を出て奥さんひとりだったそうだ…。うちらが越した後、様子がおかしいのと嵐で屋根葺き板が一部飛んだとかで保証人に連絡して立ち会ってもらったそうだ。そしたら…」

「そうしたら?」

「押入れにその子の小さな仏壇が置きっぱなしで、回りに飴がたくさん散らばってたんだそうだよ。写真と位牌は無かったそうだけど」

「じゃあ、カズが遊んでた隣の女の子って…まさかそんなこと!」

「ホントだって!あそこの大家の●●さんに聞いたんだ」

Dsc00274

心待ちにしている声に気づくことなく 季節のうつろいをさまよい続けるナギサ

そして 人に見えないものが見えて 接することができる己に気づき始めたカズヒロ

ふたりが出会うのは もう少しずっと後のことです。

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2010年7月21日 (水)

ロビンソン ①

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どこまでも高い青空の中、風の背に乗って飛んでいる。
私はナギサ。半人前の幽霊─
とは言っても何年も幽霊してるのになぁ…

季節は秋。一面緑色だった景色は、どこまで行っても赤や黄色に染め替えられていた。
風に乗って赤い木立の道を通り抜けるとハラハラと枯葉が舞い上がっていく
もうすぐ冬なんだね。これからどんどん寒くなっていくんだ…

Roop

昔─冬に学校へ通う道の途中に立っていたシラカバの木が骨みたいに見えて、なんだか怖かった。
毎日、目をつぶってそこを走り抜けていたけれど、季節の魔法は何もなかった枝に少しづつ葉を着せる…。
シラカバは白骨じゃなくて、ちゃんと生きているんだから当たり前なんだろうけど、それがすごく不思議だったよ。

watch「ナギサーン!赤ぃやら黄ぃやらのも見飽きたなんでしなぁ…」

Handskoron_2 

左腕に巻きついたコロン(腕時計の姿をしている)がそう言った。
海の近くで会ったコロンは、近くの山に置かれたお地蔵さんの姿をした石の魂で、今は私と旅をしている。

「そうだよぉ!秋なんだから。冬を迎える準備の前に色を変えるんだよ」confident

watch「でもしな、変わらんのもあるじゃしに」

相変わらずコロンの話し方は、おじいさんみたい。
私も教えてはいるけど、元いた山に来ていた人たちの話から覚えた言葉が染み付いているみたいで直らない。
コロンはあまり気にしないし、私もコロンがなにを言おうとしているか大体理解できるようになってるい。

「えっ?…まあ、そういう木もあるけどさ。大きい葉っぱは、ほとんどそうだよ」coldsweats01

watch「そや!ずっといてた山で、あての上にもボタンボタン落としよりしたならぁ。何しよる思いでんが」

「嫌だった?」confident

watch「うんにゃ!ボッけし乗っかる雪よりゃ可愛もんだでし」

「そうか…もうすぐ雪も降ってくるんだね…」think

Koufuku

冬は忘れることなくやってきた。
空から来たものたちは見渡す限りの大地にまんべんなく振り積もっていった。
凍てつく空気も緊張しているみたいで、寒そうな日が続く。
もちろん今の私にはその寒さはわからない。

冬は光は、一際まぶしい。
夏よりも真っ青な空は、まるで絵のようで風のほとんど吹かない日もある。
そんな時は、夜に泊めてもらった家にズーッと足止め。
こういうときに人が来て見られたら、ここが幽霊屋敷と誤解されるかもしれない。
だから、ツララから落ちる雫の音にもオドオドしてしまう…

Mayohiga1

Mayohiga2 「ねぇコロン? コロンも寂しくなることってある?」

「ん~っ?そげなん考えるばことは、無しですなぁ」

「仲間…っていうか他の石とは話したことないの?」

「わてらば石ころですからな。そゆな言葉、したことぁないです」

「他の石ころも何か思ったりするかな?」

「思うなことあるだらけんど、知りえませんで。割れて分かれたんでだから話すことも無しでる。」

Ohazikibotun 「人もそうだよ。たぶん何か大きなものからどんどん別れていって小さな自分になるんだと思う。でも、誰かと一緒にいたくなるんだよ」

「それは、何でらすか?」

「うーん…何でって…そういう気持ちになるんだよね」

「それにしたってらナギサン、人嫌いでれしょうに」

う…痛いとこ突かれた…。sweat02

Mayohigaroom

「それは… それは私が、もう人じゃないから…だよ」

「…あても今ば石ころでねぃですsign01ナギサンと一緒でぁすsign03

「…コロン、ありがと。やさしいんだね」wink

「いやあ…ナギサンとがトモダチでやすしな」sweat01

コロンは照れるみたいに、そう言った…

Sairo

やがて春の風が吹き始めた。空の高いところでは、季節の戦いが広まって運動不足な冬はヒューヒュー言いながら汗をかいている。
だから、かえって春の思う壺だった。
季節の変わり目は、いつも新しい方に部があるんだよね。
真っ白な世界に満足していた冬は、自分が思う以上に力を失っていたことに気づき、勇ましい春の猛攻に領地を追われて、どんどん遠くの山へと逃げだしていく。

春の訪れ。新しい命の季節…
その眺めを目の当たりにしながら心のどこかに穴が開いてどんどん空気が漏れていくような気持ちがするのは、その芽吹きに私が無関係だからなのかもしれない。

Skyhigh

この命萌える世界にいる私はなに?
どこへ行こうとしているのだろう。

「ナギサン!なに考げぇとりますんかな?」

「うん?いや…別に…」

石ころのコロンは、機械みたいに表情のない声で話しかけてくるけど、私のことを気にしているみたいなところがあった。
人を観察するのが好きだけど、私のこともちゃんと見てるんだろう。
人から逃げ続けている私とは大違いだよね。

Fukinotou 「ねぇコロン?生まれ変われたら人間になりたい?」

「うーむ…どうでかんなぁ…。たぶんにそれは、したくならん思いますに…」

「えっ?どして…?人が好きなんでしょ?」

「人らは、己らの見える場所が小さなやうに思みいます」

「…?」

「自分ん中から外を覗いてる風なんだらな。いつもん何か被ってるさのようです。どこか“ぎこちない”しておるようだすな。あてが思うに人ぁ自分になられい生き物でおるししょうな」

「うん。自分の思うこと、したいことだけじゃ社会っていうのは上手くいかないからね。人としての顔っていうのがあるんだと思うよ」

「そういうところさが面白なんやねす。だば!人にならんで、あてはコロコロしながら人を見ちょるんが好きでぃす」

「ふーん…」

白い大地が黒っぽくなり、また大地が緑色になり始めた頃、山の上に追いやられて意固地になった冬のところへ行った。
そこにコロンと同じようなお地蔵様がポツンと立っているところへ来た。
そっと触れてみると中に何かがいるのはわかるけど、応えてはこない。
それが神様とか仏様なんだと思っていたけれど、コロンと出会ってからそうではないと知ったんだけどね…。

Wish

「ねぇコロン?このお地蔵様とは話せる?」

「うんにゃ!石ころ同士は、よう話ませんねや。人のやうに話たり、くっ付いたりはしねいです。同じ塊んから一度離れでば、ひとつに戻ることもなしでれす…」

コロンが人の好きなところは、人が心を交し合えるということなんだと私は思った。
心を交わす人(コロンは別にして)などいない私もやっぱり“石ころ”と同じなのかもしれない。

…いや、そうじゃない。そうじゃないんだよ!忘れるところだった…。
“カズくん”のことを忘れるところだった。
ひきこもりの幽霊な私を陽の下へもう一度出て行くきっかけを作ってくれたカズくんのこと。

        「いつか、会いに来るよ─」

Touge

風に乗って旅することを覚えた私には、カズくんに会いにいくのは、とても簡単なのかもしれない。海で遠くを見ていつも思うのは、向こう側にいるカズくんのことだ。
自転車乗りが上手だったね…あの日が懐かしい。
私がこうして何も食べない、眠ることも無い幽霊として「この世」にい続けていられるのは、きっとその想いがあるからなんだと思う。
だから私は待ち続けている。

Dscf5889

いつ会いにきてくれるだろう。ホントに会いにくれるのだろうか?
それよりも私は、前と同じように会うことができるんだろうか?

その想いが叶ったとき、私はどうなるのだろう。
その日を素直に受け入れることができるのか…

こころのどこかで その日が来なければいいと…

本音の私は、そんなことを思っているかもしれない 

(つづく)

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2010年7月 4日 (日)

トーマの心象

Dscf7477

無計画に廃墟探しに行くことが多い。
目的の場所を決めて出てきても、その途中で見つけたところのほうが素晴らしいことの方が多いから。
出先で目的地の撮影がことのほか早く終わったり、既に解体されていたり、諸般の事情でそこまで行きつくことができなかったり…等いろんなことがあって予定が狂う。狂うものだと思う。それも楽しんでいる。
特に廃墟は、よほど名のある産業遺産とか歴史的建造物が崩落の危険とかで解体やむなしで事前告知の情報が入らない限り、行ってみると既に更地になっていたなんてことも珍しくない。

予定が狂うからクルクル回る。北海道内広いから、移動時間が長くてお腹もクウクウ鳴く。
それで目もクルクルしてくるので、美味しいものでもとランチタイムするわけです。
撮ってきた画像をチェックしながら「さて、これからどうしよう…」と地図を広げてみる。

「当麻(とうま)鍾乳洞─!」

鍾乳洞かあ…そういえば何度か行こうと思ったことあったけど、まだ行ってなかったなぁ…
廃トンネルとかは良く行ったけど鍾乳洞には入ったことがない。

「よーし!ここ寄ってこっ!」happy01

Dscf7428

Dscf7423 旭川市の隣町、当麻町の郊外。畑作風景が続くばかりで、さほど山奥でもない。やがて道は次第に両側の山がゆっくりとこちらへ近づき、高みも増してきた。
見上げる空がずいぶん小さくなってきた頃、谷間にポッカリと開けた箱庭のような場所が現れた。
谷間に巨大な黒い舌のごとき駐車場と数棟の建物が見えた。向こう側に庭園風の場所があり、その中に恐竜のモニュメントがある。 なんで…?

Dscf7433 GW中だというのに注射中の車は少なく、人もさほど多くはない。
たぶん旭山動物園の方に流れているのだろうね。聞いた話じゃ周辺の道も渋滞してるそうだ。混雑とか行列とか苦手だからいいや。

ともかく鍾乳洞へ入ってみることに…あれ?入場料じゃなくて「入洞料?」なるほどね…。
脇に龍のタイル画をあしらった洞窟入口はトンネル入口のようにも見える。
それはさておき、外界と違うひんやりした洞窟内は金属製の細い通路が続き、誰かとすれ違うのは難しそうな程狭い。外から差し込む陽の光が及ばないあたりからツララ状の鍾乳石が見えてきた。

Dscf7466

当麻鐘乳洞は、昭和32年に石灰岩の採掘中に発見される。全長135m、内部の高さは7~8m程。1億5千万年前のジュラ紀から、気の遠くなるような時間をかけて地下水の溶蝕作用がつくりあげた石灰洞窟。
学術的にも貴重な鍾乳洞としてされている。駐車場にいた恐竜はこの鍾乳洞の生まれた時代を意図したもので、ここで恐竜の化石が見つかったわけではないようです。

Dscf7443

鍾乳石が3㎝成長するのに約200年の歳月を要するといわれている。この鍾乳洞は、特に不純物が少ないので結晶度がきわめて良く透明感が高い。
その後(昭和36年)この鍾乳洞は北海道の天然記念物の指定を受け、北海道指定天然記念物で唯一一般公開されているものだという。

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当麻町には竜神伝説がある。恐竜の時代から鍾乳洞の成長が始まったとはいえ、竜神伝説はいささか無理があるように思えた。
しかし、恐竜から発した伝説ではないようです。当麻町には、こんな昔語りがある。

Dscf7573 むかし この土地がトウ・オマと呼ばれていた頃。
空を覆う雲の中から夫婦の龍が現れた。
土地の先人達は大空を飛んだり、大地をかけ回る龍を見て、その龍を自分たちの 守り神とし、この地の発展を願ったという。
そして龍神が休み所、それが当麻の鍾乳洞(蝦夷蟠龍洞)と伝えられている。

洞窟の内部構造も2頭の龍が並んでいるような形をしているのだそうだ。
でも、どうやって洞窟の形を知るのだろうと思うけど、それは測量技術のなせる技なんでしょうね。
この伝説があることから町のあちこちには龍を模ったモニュメントを見かける。

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通路は奥へ進むごとに天井が低くなったり、時折広い通路や階段を延々と下りていくところが続いていく。
何分に中は薄暗いので三脚を据えて夜間モードで撮影。
時折、他の入場者もいるので狭い通路を行ったりきたりしながら撮り進んでいた。

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今、自分は地表からどれくらい降りているんだろう?

ライトアップされて赤や緑に美しく輝く鍾乳石の幻想的な情景とは裏腹に少し不安にもなってきた。
前にも後ろにも人の姿は見えない。
意外と自分は狭いところが苦手なんだなぁ…。
それにしても鍾乳洞ってすごく内臓感覚のあるところです。

人の手によるトンネルや坑道は、その専門技術によって数年・数十年で作られる。
鍾乳洞は雫など、水の力で気の遠くなるような年月を経てここまで完成した。
そして今も成長し続ける。

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この時の経過は人の時間の感覚からすると、とても待ち続けられるものではないけれど、水一滴の力が意図したかのようにかくも美しい造形を作り上げた。その時を超越する職人にとって人の時間など、きっとせせこましく他愛ないことに過ぎない。
その人を超越した時間に人は「神」を見るのだろう。

そんな、トーマ(当麻)で感じてきた心象風景でした。

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『当麻鍾乳洞』

場   所:北海道上川郡当麻町開明4区
       JR石北本線 「当麻」駅から7㎞。
       車の場合は、旭川市内から国道39号線─道道1134号線経由で45分。
       高速利用の場合、道央自動車道車 「旭川北IC」から27㎞。
       札幌から、2時間30分。

営業時間:午前9時~午後5時

営業期間:4月29日~11月3日。

料   金:高校生以上500円 小中学生300円 幼児無料

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夏場は涼しくて快適な内部だけど、秋口とかは寒いかもよ。
羽織るものを用意しておいた方がいいかも。
けっこう階段も多いから、それなりの足元で。

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2010年6月21日 (月)

動かざる湯場

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周囲には植林で覆われた緑の山が幾重にも連なるこの地にそこはあった。

起伏にとんだ道を走る。緑と道、そして空。
それ以外は何もないながら死角の先に何かあるかと期待すれども
風景は、さっきと同じところを走っている感覚に囚われてくる。

やがて緩やかながら大きなカーブに差し掛かったところで、その内側に小高い奇妙な丘をが見えた。
回りの山より変わっているとはいえ、目立つわけではない。でもその一角が無性に目立つのは、そこが瓦礫の山と化しているから。

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Dscf7332_2 『産廃処理場かな…?』

それにしては、趣がちがうように見える。
散らばるコンクリート片。
陽に晒され、のたくる雨上がりの蚯蚓(ミミズ)みたいな鉄筋。
こんな山をいくつも越えた場所には不似合いな不法投棄物。

そこが単なる産廃置き場ではないことがわかったのは、まだ器の形をかろうじて残していたからだ。
でもそこは、役目を終えて解体されたというよりも爆撃に晒された異国の建物のごとき有様…

この瓦礫の山は、ほんの四半世紀前までは、豊かな自然に囲まれた温泉だったという。
昭和52年開業以前より湯治場としてここにあり、小さな小屋を持つ浴場であったが、創業者の悲願により浴場として整備されたとされる。

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Dscf7365 この温泉の側の山には不動明王が祀られていたのだそうです。
元より、こういった湯場や豊かな湧水のあるところには不動明王信仰があったそうです。
不動明王と滝にまつわる伝説は日本各地にあり、その滝と不動明王を結びつけたのは、修験道によるものとされている。
修験道とは、山岳信仰が背景となった宗教で、そこに真言宗天台宗が伝わって修験道は密教と深く結びつくようになりました。

密教の考え方おいて、全ての仏は大日如来の化身であり、中でも不動明王は大日如来の「教令輪身」として、仏法に従わない者まで力ずくで救うという役割を与えられていたそうです。
それだけで、あの恐ろしい形相ではありませんが、不動明王の利益には、除災招福、戦勝、悪魔退散、他。その中には行者守護というのもあり、不動様の印象は、見た目どおり厳しい存在で「静」というより「動」、「涼」というより「焼」な感じがします。
修験道には、心身を清める修行場としても滝が使われる。
不動明王の逸話にも滝で身を清めるという話もあり、修験道の話と相まって、「滝」と「不動明王」の関係が地方へと伝わり、地元の水神信仰との接点で不動信仰が絡み合って水場、湯場に「不動さん」が祀られるようになったと推測される。

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Dscf7357_3 ここもそういった場と同様に不動明王が祀られて霊験新たかな湯に人々が集まるようになっえいたのでしょう。
しかし、開業からわずか8年後の昭和60年、創立者が逝去。
諸般の事情で湯場は引き継がれること無く閉められることとなりました。
街から遠い場所だったため、集客に伸び悩んだ原因か、この時代の背景として人々が中流意識を持てるようになったころで、のんびりしながらも決して背伸びのなかった近場の温泉旅は、「より早く・より遠くへ」という時代を向かえ誰もが海外へ飛び立つようになり、そういう時の変化が、こういった湯場を人知れず閉めさせることになったのかもしれない。

それにしても解体したというよりも爆撃に晒されたかのように惨たらしい残骸の山。
施設としての不動産価値を無くすことで税負担を免れることができるという話を聞いたことがあるけれど、この状況で放置された真意は計ることができない。

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営業当時、ここでは「ラドン」が取り入れられていたのだそうです。
ラドンは自然界に存在する物質で、もっとも強力なイオン化作用〈物質にイオンを与える作用〉があり、温浴中に人体の呼吸により血液中、また皮膚を通して体内に吸収されると、その作用が血液・組織内に働いて、血液内の老廃物質、中性脂肪、コレステロール、過剰な糖分等の生理的代謝作用が促進されるため、血液が浄化
される。同時に組織内に停滞している凝りや痛みの原因とる老廃物の化学反応が促進され、消退してゆく。
また、人体神経組織に対して特殊な鎮静作用を有すという。
入浴後の臨床検査によると、このイオン化作用は、神経系にも効果があるのだそうです。

その効用として

Dscf7378・自律神経失調症
・更年期障害
・めまいや耳なりを伴うメニエル氏病
・冷え症
・神経系頻尿症
・腹部腸管癒着症
・気管支性喘息
・頭部外傷性神経症
・精神身体疲労
・多発性神経繊維膣

などがあげられます。

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Dscf7412 しかし、この霊験新たかな湯は創始者の代をもって閉められた。
そして瓦礫の山となった宿は、栄華の日を語るでもなく、孤独に万感の空の下、冷え切って痛んだ体を陽に当てて癒すのだった。

乾ききった湯場。「不動さん」は既にここにいないのだそうです。
人からも豪腕な御仏からも見放されたような地には、ここが華やいでいた春に彩りの片寄った山にわずかながらも色を添えた花が今も咲き誇っている。

そう それは、あたかも手向けの花のように。。。

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